561石川禎浩著『革命とナショナリズム――1925-1945――』

書誌情報:岩波新書(1251),xv+240+12頁,本体価格820円,2010年10月20日発行

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全6巻予定の「シリーズ中国近現代史」の第3巻である。ソ連の崩壊によるモスクワ文書館の資料公開や中国での資料発掘をもとにソ連の役割や革命運動の実際の叙述が詳しい。また,スタンフォード大学フーバー研究所所蔵の『蒋介石日記』原本を参照し,蒋介石の後年加筆・修正を峻別したそうだ。国民党と共産党による政治と革命の20年が執拗に追求されている。
孫文の率いた中国国民党の正統性を国民党と共産党のどちらが継ぐのかという軸と日本や欧米諸国さらにはソ連との駆け引きの中で「国民革命」を成し遂げようとしたのかという軸が鮮やかである。
第1次国共合作から武漢(=国民党中央)と南京(=国民政府)に分立し,前者から共産党を排除する「分共」の過程は事実の叙述ながら激動のその後の20年を物語っている。この時期,ソ連コミンテルンの指示や財政的支援があったことは新資料解読の成果だろう。
日本の侵略を背景にした北伐の完成と東三省「易幟」による南京国民政府による全国統一は,満軍事的・政治的・金融通貨統一を実現しつつも,「宣戦布告なき戦争状態」(74ページ)としての柳条湖事件から傀儡国家「満州国」の成立と同時期のことであった。南京国民政府時代に統計整備が進んだことの指摘や「国民意識イデオロギー」(82ページから98ページ)の論調は前著『中国共産党成立史』(岩波書店,2001年,[isbn:9784000238052])の成果を活かした部分だ。政治と革命の行き詰まる文脈のなかでは(いい意味で)トーンが変わっていた。
共産党の革命運動が影響力を持ってから第二次世界大戦終結までは一気に読むことができる。武漢国民党の「分共」から南昌での武装蜂起(ちなみに1927年8月1日。人民解放軍の建軍記念日),毛沢東の「政権は鉄砲から」論が国民党から共産党勢力の一掃の過程から生み出され,井崗山(せいこうざん)を農村根拠地とせざるをえなかった事情や長征を経て「反蒋反日」の抗日戦線の樹立,国民政府の正統性を認めた抗日民族統一戦線もコミンテルンの影が見え隠れしている。
張学良らによる西安事変(=「武力による蒋の身柄拘束というクーデター」(162ページ)),蒋開放と平和解決合意,同じく蒋の廬山談話(「応戦宣言」),国民政府の南京から重慶への移動,第二次国共合作,国民政府の和平反共建国方針など抗日戦争の終結まで日本の侵略が中国ナショナリズムの醸成に「決定的な触媒」(190ページ)になったのだ。
中国近現代史において共産党政権下でタブーになっていることも多くある。このシリーズはそうしたタブーへの挑戦の意味もある。期待できるシリーズだ。