1123岡本隆司著『袁世凱――現代中国の出発――』

書誌情報:岩波新書(1531),xiii+225+9頁,本体価格780円,2015年2月20日発行

袁世凱――現代中国の出発 (岩波新書)

袁世凱――現代中国の出発 (岩波新書)

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すくなくとも評者にとっての袁世凱辛亥革命の主役であり日本の「二十一ヶ条要求」受諾者でしかなかった。中華人民共和国の正史からすれば袁世凱は忌避されそれとの逆照射で孫文は評価されている。本書ではその辛亥革命までの歴史が詳述され皇帝にまで登りつめた袁世凱の人物像の再検討を企図したものだった。
朝鮮での日本との対峙,軍を握っての直隷総督代行,義和団の弾圧,科挙の廃止――20世紀はじめに日本への留学生が殺到したのは科挙廃止にともなって海外留学で試験に代えることも決まったことによる――など辛亥革命前史から北京の「君主国」と南京の「共和国」との相克の結果としての清朝皇帝退位・袁世凱臨時大統領就任までの道程は近代中国成立の胎動そのものだった。辛亥革命は「満州人に対する種族的復仇,漢人による政権の奪還・中華主義の発揚にすぎなかった」(185ページ)のだ。
袁世凱とその時代はまさしく,現代までつづく中国政治のひとつの出発点をなしている」(211ページ)。袁世凱を通して見た清朝末期から民国初期の混乱は中華人民共和国成立まで止むことはなかったからだ。