書誌情報:岩波書店,xi+307+2頁,本体価格2,900円,2015年1月28日発行
- -
投資対象として政情不安や独裁体制などのようにカントリー・リスクについて語られたことはこれまでも多くの例がある。すくなくとも日本とアメリカにとっての安全保障に関しては朝鮮半島情勢と冷戦時代のソ連が対象になったことがあっても,コーリア・リスクやソビエト・リスクとして取り上げられたことはなかったように思う。
ここにきて本書のようにチャイナ・リスクが分析対象になるということはそれだけ中国の存在が日本の安全保障を脅かしていると認識されているからにほかならない。中国から見る安全保障,中国の軍事・安全保障政策,中国の多元性を3つの柱にした10編からは共通した中国論と立論の独自性を感じた。
ひとつの共有認識は中国の海洋進出についてだ。中国との陸上国境を接する周辺国とは14カ国中インドとブータン以外の12カ国とは国境画定を終え,「陸上において,中国は外敵の脅威におびえる必要がな」(44ページ)いということである。
ふたつめは人民解放軍の二重性――党の軍隊と国を守る軍隊――から「中国の政治システムの脆弱性」(144ページ)を読み込んでいることである。
チャイナ・リスクを論じるにあたって中国の軍事・安全保障政策を詳らかにするという正攻法は不可欠な作業と言える。
みっつめは中国の海洋進出や反日運動,共産党統治などからつねにナショナリズムを鼓舞する手法を指摘していること。
もっとも立ち入った議論の展開は中国の海洋進出に関連した日本の対応についてである。自国の防衛力強化,周辺国との安全保障協力の強化,アメリカとの同盟関係の強化が唯一かどうかは異論がありえるだろう。
中国の脅威をいたずらに語るだけではすませられない大国・中国の実像を知る本として薦められる一書である。
- 関連エントリー
- 孫歌著『北京便り――中国の真の面影――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20150418/1429367413
- 沢野ひとし著『北京食堂の夕暮れ』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20140902/1409667125
- ピーター・へスラー著(栗原泉訳)『北京の胡同』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20140528/1401287075
- 中国「紅色コレクション」→https://akamac.hatenablog.com/entry/20140214/1392388543
- 橋爪大三郎・大澤真幸・宮台真司著『おどろきの中国』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20140211/1392128377
- 丸川知雄著『現代中国経済』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20131225/1387980932
- 李敏著『中国高等教育の拡大と大卒者就職難問題――背景の社会学的分析――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20130723/1374589069
- 梶谷懐著『「壁と卵」の現代中国論――リスク社会化する超大国とどう向き合うか――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20120720/1342795246
- 加藤千洋著『胡同(フートン)の記憶――北京夢華録――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20120531/1338473376
- 譚璐美著『革命いまだ成らず――日中百年の群像――』上・下→https://akamac.hatenablog.com/entry/20120505/1336230157
- 久保亨著『社会主義への挑戦 1945-1971――シリーズ中国近現代史④――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20120129/1327848367
- 酒井順一郎著『清国人日本留学生の言語文化接触――相互誤解の日中教育文化交流――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20120111/1326292315
- 川島真著『近代国家への模索 1894-1925――シリーズ 中国現代史②――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20120109/1326118647
- 永田圭介著『厳復――富国強兵に挑んだ清末思想家――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/akamac/20111231/1325300563
- 国分良成編『中国は,いま』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20110513/1305299675
- 永田圭介著『厳復――富国強兵に挑んだ清末思想家――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20111015/1318688463
- 廉思編(関根謙監訳)『蟻族――高学歴ワーキングプアたちの群れ――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20110506/1304692181
- 藤井省三著『魯迅――東アジアを生きる文学――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20110427/1303914384
- 石川禎浩著『革命とナショナリズム――1925-1945――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20110116/1295188428
- 榎本泰子著『上海――多国籍都市の百年――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20091229/1262096973
- 竹内実著『中国という世界――人・風土・近代――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20090318/1237384528
- 小島朋之著『和諧をめざす中国』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20090118/1232285753
- 園田茂人編『中国社会はどこへ行くか――中国人社会学者の発言――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20090103/1230991663
- 春名徹著『北京――都市の記憶――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20081119/1227102754
- 高晃公著『魯迅の政治思想――西洋政治哲学の東漸と中国知識人――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20080612/1213261597
- 鈴木しづ子著『『男女同権論』の男――深間内基と自由民権の時代――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20071116/1195206723
- 平川祐弘著『天ハ自ラ助クルモノヲ助ク――中村正直と『西国立志編』――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20070507/1178531320
- 紺野大介著『中国の頭脳 清華大学と北京大学』https://akamac.hatenablog.com/entry/20070417/1176804929
- 1年前のエントリー
- マイケル・ブース著(寺西のぶ子訳)『英国一家,日本を食べる』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20140522/1400767210
- 2年前のエントリー
- 第6回「大学は美味しいフェア!!」→https://akamac.hatenablog.com/entry/20130522/1369228778
- 3年前のエントリー
- 第5回「大学は美味しいフェア!!」→https://akamac.hatenablog.com/entry/20120522/1337694765
- 4年前のエントリー
- 5年前のエントリー
- ホテルにある愛媛製品(その2)→https://akamac.hatenablog.com/entry/20100522/1274540228
- 6年前のエントリー
- 一橋大学社会科学古典資料センター年報およびStudy Series(2009年)→https://akamac.hatenablog.com/entry/20090522/1242999464
- 7年前のエントリー
- おさぼり
- 8年前のエントリー
- 七尾和晃著『闇市の帝王――王長徳と封印された「戦後」――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20070522/1179828909