720譚璐美著『革命いまだ成らず――日中百年の群像――』上・下

書誌情報:新潮社,(上)318頁,本体価格1,600円,2012年1月20日発行;(下)301頁,本体価格1,600円,2012年1月20日発行

革命いまだ成らず〈上〉―日中百年の群像

革命いまだ成らず〈上〉―日中百年の群像

  • 作者:譚 〓美
  • 発売日: 2012/01/01
  • メディア: 単行本
革命いまだ成らず〈下〉―日中百年の群像

革命いまだ成らず〈下〉―日中百年の群像

  • 作者:譚 〓美
  • 発売日: 2012/01/01
  • メディア: 単行本

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昨日五月四日は本書でも下巻で触れられている五・四運動(1919年)の記念日だった。孫文は,中華民国軍政府(北京政府)から任命されたがパリ講和会議には出席しておらず,五・四運動の被批判者になることはなかった。「孫文のこの判断は正しかったのではないか」(下,260ページ)。
本書は19世紀後半から孫文死去までの中国現代史を孫文中心に描いた日中群像史である。孫文が生涯をかけて友人・友邦とみなし続けた日本人・日本とのかかわりと辛亥革命に結果しつつも路線対立・軍閥割拠によって翻弄される中国が複雑に交差する。辛亥革命100年(2011年)と中華民国100年(2012年)にふさわしい大著だ。
光緒帝死因の新説(急性胃腸性砒素中毒),康有為と梁啓超との日本での出会いと宮崎滔天の役割,義和団事件後の賠償金問題の詳説,孫文アメリカ型大統領制と宋教仁の議会制民主主義との将来展望像,袁世凱の野望など中国の歴史は,日本人・日本との関係を主軸にしながら列強との駆け引きと同時進行だった。隣国の革命家・孫文が関係した多くの日本人はアジア主義者と一括りにされることが多い。著者は,宮崎はじめ,頭山満犬養毅,末永節,萱野長知,伊藤博文南方熊楠,平岡浩太郎,内田良平,梅屋正吉(長崎県文化振興課「孫文梅屋庄吉と長崎」→http://www.tabinaga.jp/sonbunumeya/)らとの人物交流に的を絞っている。
「華僑は,革命の母である」(下,147ページ)とは孫文の言葉である。世界に散らばる華僑からの資金獲得が孫文の主要な革命業務と思わせるほど,彼の行動なくして辛亥革命はなかった。満州の租借を巡る孫文と日本とのやり取りについて,広東人・孫文の東北地方への偏見と外交交渉のひとつとしての可能性から,「外交資料に残された記録は事実」(下,159ページ)とする著者の意見も紹介されている。
「日本で学んだ近代思想の基礎の上に,ロシア共産党のアドバイスと資金援助を支えとして誕生した組織」(下,262ページ)・中国共産党の上海での誕生(1921年7月)から第一次国共合作を経て,辛亥革命はつぎの段階にすすむことになる。