1214梶谷懐著『日本と中国経済――相互交流と衝突の100年――』

書誌情報:ちくま新書(1223),301頁,本体価格900円,2016年12月10日

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中国近現代史に位置づけて日中間の経済問題を論じ,そのなかからこれこらも生じるであろう日中関係を展望する歴史と時論の中国論である。ひとつのキーワードは中国における「統一的な国民経済の形成」である。
著者は,まず戦前期の中国に進出していた在華紡(鐘淵紡績,東洋紡績,大日本紡績)におけるストライキや労使紛争と日本の中国侵略によるナショナリズムがからむ構図から論壇の三類型(「脱亜論」的中国批判,実利的日中友好論,「新中国」との連帯論)を読み取る。ひとつめが政治的右派に,ふたつめが親中派の政治家や財界人に,みっつめがいわゆる革新派に継承されているとみる。
さらに著者は,円を基軸とした経済圏の構想とそれに対する国民政府による幣制改革から土地改革を梃子にした共産党政権の誕生,友好貿易とLT貿易を中心に日中間の政経分離・不可分の実態,日中国交正常化(「72年体制」),日中蜜月時代を追う。
日本と中国との経済関係は競合するどころか「むしろ補完的な関係」(241ページ)であり,「チャイナリスク」とは多くの産業で直接競合するリスクではなく先行き不透明なリスクとナショナリズムや外交・安全保障上のリスクにある。こうした不確実性を内包しながらもメイカー・ムーブメントにみられる創意工夫による競争と競争ルールを変える可能性に注目する。
民間企業が政府から自立しておらず政治的自由もない。労働者の権利も認められないなかで労使間の対立をまたぞろナショナリズムに頼る。超大国・中国は地理的・経済的に日本の隣国であり,嫌中か「好」中,中国脅威論や中国たいしたことない論を超え無縁でいることはできない。