009西垣通著『IT革命――ネット社会のゆくえ――』

書誌情報:岩波新書729,iv+189頁,本体価格700円,2001年5月18日

IT革命―ネット社会のゆくえ (岩波新書)

IT革命―ネット社会のゆくえ (岩波新書)

初出:コンピュータ利用教育協議会『コンピュータ&エデュケーション』第11号,柏書房,2001年11月30日

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IT革命は革命たりえるのだろうか。著者によれば「IT」などという言葉がなくなってしまうかもしれないが,Information Technologyが持っている意味や社会的作用は半永久的に続くという。たしかに,ITがITたるゆえんはその重要性が増していくばかりであるところに存在するのだろう。
同じ著者による『マルチメディア』(岩波新書,1994年6月,asin:4004303397)の続編であり,21世紀のビジョンを示そうとした本書において中心をなすのは,「メディア・ビッグバン」と「情報流」である。「メディア・ビッグバン」とは放送と通信との融合を意味し,「情報流」とは一般商品流通の物流にかわるインターネット上の情報を意味する。この二つがITを理解する鍵としながら,IT革命の現状と特徴を抉り,ネット社会の未来をオンライン共同体や情報都市創造を展望する。
著者はかねてからインターネットを軍事対市民という二項対立としてとらえるのではなく,アメリカの「フロンティア精神」と関連させ,「文明史的意義」を強調してきた。本書ではさらにすすんで互酬経済やオンライン共同体の可能性を探り,情報流を手がかりに新しい都市空間を構想した。
ネット社会を構成するのは生きた人間にほかならず,その個性をもった現代の人間にたいする熱いメッセージを読む取ることができる書物である。