741吉田文和著『環境経済学講義』

書誌情報:岩波書店,xi+235頁,本体価格2,400円,2010年3月19日発行

環境経済学講義 (岩波テキストブックス)

環境経済学講義 (岩波テキストブックス)

  • 作者:吉田 文和
  • 発売日: 2010/03/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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著者の若い時代の技術論,人間と自然のあいだの物質代謝論や不変資本充用上の節約論はよく読んだ。また,『ハイテク汚染』(岩波新書,1989年,[isbn:9784004300625])・『IT汚染』(同,2001年,[isbn:9784004307419])・『循環型社会』(中公新書,2004年,[isbn:9784121017437])は著者の理論の応用として時代の要請に応える著作として評者の読書リストに加わった。
本書は,環境経済学に持続可能性のための「潜在能力を高める環境ガバナンス論」を取り入れ,個人主義的アプローチと全体主義的アプローチとを意識的に追求している。個人に基礎をおいた環境の自然的基礎や自由・平等・公正と環境ガバナンス論にまとめられる社会の環境問題対処能力構築や統治能力がそれである。
環境経済理論として新古典派への批判的紹介・検討とマルクス経済学に限定されない政治経済学的分析は,環境基礎理論として不変資本充用上の節約論から「グリーン・ニューディール」によるふたつの危機(環境と経済)の解決への展望にまで触れている。「雇用創出・需要喚起・研究開発・環境保全の基盤投資を行って,環境的にも社会的にも持続可能な世界を展望できるようにする」(203ページ)という。あえて二兎を追おうというわけだ。
環境経済学の経験を生かしたテキストとして編まれ,文献研究・調査とデータ収集・聞き取りという机上からフィールドにいたる往還の必要性を再現している。
日本と世界を視野に入れて,資本主義諸国のみならず発展途上国,旧社会主義国における自然・環境問題も鳥瞰できる。
著者は今秋の経済理論学会で「原発災害の政治経済学」を講演する予定になっている。もうひとかたの宮本憲一のリスク社会論ともども楽しみな企画である(関連エントリー参照)。