1126横山宏章著『素顔の孫文――国父になった大ぼら吹き――』

書誌情報:岩波書店,xiv+294+6頁,本体価格3,800円,2014年4月22日発行

素顔の孫文――国父になった大ぼら吹き

素顔の孫文――国父になった大ぼら吹き

  • -

「革命家」孫文とともに「現在,革命はいまだなお成功せず」(孫文「遺嘱」)はよく知られている。孫文と日本人・日本との深い関わり,同時期の「革命家」の多くが日本留学経験者であったこともよく知られ,中華民国建国(1912年)前後からの中国は日本人・日本ぬきに論じられない。「革命派,変法改良派が入り混じった中国革命を培ったのは日本」(71ページ)にはむべなるかなと思う。本書もこの日本人・日本との関わりに多くを語っている。
中華民国樹立後に憲法制定を目指した指導者に宋教仁がいた。宋については「臨時大総統の袁世凱に暗殺」(65ページ)・「袁世凱の差し向けたとされる刺客に撃たれて斃れ」た(97ページ)・「希望を託していたはずの袁世凱が刺客を放って(中略)暗殺」(104ページ)・「袁世凱政権との関係が明白」(109ページ)とくり返し指摘していた。
満族支配打破のためには手段を選ばず軍閥ともコミンテルンとも手を結ぶ現実主義者としての「革命家」孫文は独裁志向や愚民思想を終生変わらず持ち続けていた。「孫文に民(たみ)は見えていたのだろうか」(278ページ)の一言に著者の孫文伝の思いが凝縮されていた。