728加藤千洋著『胡同(フートン)の記憶――北京夢華録――』

書誌情報:岩波現代文庫(社会243),xii+241頁,本体価格920円,2012年5月16日発行

胡同の記憶――北京夢華録 (岩波現代文庫)

胡同の記憶――北京夢華録 (岩波現代文庫)

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同名の単行本(平凡社,2003年10月)に新稿の第23章「薄れる『近過去』の記憶と風景」を加えて文庫化したもの。胡同(フートン)とは元の時代に遡ることができる横町や裏道のこと。「北京の街を縦横に走る毛細血管」である。日本なら狸小路とかラーメン横町(丁)に相当するのだろうか。
元の時代には413,明の時代には629やら1170の数字が挙がっているという。清朝の時代には2211,民国時代には4800,解放前には3200という数字もある。著者の計算では8千数百あった。名もついた大きな胡同は306,名もない小さなものは牛の毛ほどで無数あって数え切れないとの「北京人の賢い答え方」(「有名胡同三百六,無名胡同似牛毛」)が当たっているという。
著者の新聞社特派員として北京に滞在した7年弱(1984年末から88年春までと90年代後半から2000年春までの2回)の胡同見て食べ歩いた随想録である。胡同の風景とそこに暮らす北京人の視線からときどきの政治・経済の動きを伝えるものになっている。著者が「定点観測」にした公園,料理店,本屋,茶葉店なども変化の波に襲われていることがよくわかる。
中国に関する報道がない日はないほど中国への関心は強くなっている。鄧小平の改革開放路線で一気に加速した中国の「変貌」を胡同から見てみるのもいい。もし北京に住むことがあったとしたら,胡同の古道を歩き倒してみたいものだ。