677川島真著『近代国家への模索 1894-1925――シリーズ 中国現代史②――』

書誌情報:岩波新書(1250),xiv+242+11頁,本体価格820円,2010年12月17日発行

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日本では明治後期から大正年間,清朝の最後の15年と中華民国前期(北京政府期)にあたる1890年代半ばから1920年代半ばまでの中国近現代を扱った一書は読み応えがあった。主権国家としての「中国」や国民としての「中国人」がいかに形成されてきたのかがテーマになっており,「「救国」をめぐる豊かな物語」(230ページ)が紡がれている。
その「中国」や「中国人」は,電報を使って発信する通電圏によって漢人中心に都市部の知識人の間から徐々に形成され,清の版図を継承することで民族問題を現代にまで引きずる。また,欧米のせめぎ合いのなかで社会主義をふくめてさまざまな政治手法と政治運動も活発だった。いわゆる政争だけでなく「救国」に関連する思想・文化の影響力を厳復や梁啓超などにも要所で触れているのも本書の特徴のひとつである。「日本経由の「近代」」ではこう指摘している。「当時の日本は,まさにライジング・ジャパンとでもいうべき存在で,清からみればその発展から何かを学びとろうとする対象でもあり,また脅威にもなりえる存在でもあったのだろう」(69ページ)。日本への留学は日本の国費留学制度や日露戦争での日本の勝利だけでなく,「科挙および人材登用制度の変容との関連性のほうが重要」(70ページ)と的確である。留学生のほか日本から多くの教員が清に渡った。吉野作造袁世凱の息子の家庭教師)や有賀長雄(あるがながお・政府顧問)である。
著者が繰り返す20世紀初頭の中国から見た日本は,「(日本そのものというより)日本の摂取した西洋近代」(69ページ)・「日本そのものというより,西洋近代」(95ページ)だった。おそらく本書の対象とする時期以降その中国を植民地化していく帝国主義国家・日本の姿があるからだろう。
ナショナリズム,主権,歴史の問題,正義,民族問題など,すべて「現在へと連続する歴史的な事象」(240ページ)を描くことで,この時期の30年が「連続性と変容を含む歴史過程」(241ページ)として浮かび上がってくる。「歴史的な事象」がこれでもかと凝縮された一書である。