1166梶谷懐著『日本と中国,「脱近代」の誘惑――アジア的なものを再考する――』

書誌情報:太田出版,357頁,本体価格2,200円,2015年6月26日発行

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日中両国で声高に聞こえてくる「脱近代」の議論を紹介しそれを整理しながら「アジア的なもの」を掘り下げている。「方法としてのアジア」(竹内好)を一歩進め,一国内で完結する近代化論や「脱近代」論に民主主義,公共性,立憲主義市場経済を巡る日中間の相違と相互影響を見ようという姿勢は一貫している。
烏坎村重慶を例に公共性と一般意志を,毛沢東を論じて左派が国家主義と結びつく特徴を,中国の「国家資本主義」から脆弱な財産権の問題を,二つの二重性(西洋近代/アジア,および,民衆/権力)から日本の言論空間を手際よく指摘している。
アジア的なものを属性として承認したうえでそのアジア的なものとどう付き合っていくのか。中国論を中心としていても,日中の「体制」の相違を超えて,民主主義,国家と公共性,経済制度と政治制度,国家と法の支配などから日本を覆う「一国近代主義」の陥穽を問うていた。
戦前の日本資本主義論争時の中国論をまとめ,当時のマルクス主義(講座派)が結果として日本の中国への侵略を肯定したりその思想に転化してしまったとの断言は講座派を齧った評者にはよく理解できた。
知の交通整理と答えを外にもとめない。「あとがき」での自負は本書を一読すればわかるはずだ。