837橋下毅彦著『近代発明家列伝――世界をつないだ九つの技術――』

書誌情報:岩波新書(1428),vi+195+4頁,本体価格720円,2013年5月21日発行

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発明の背景やその後の経緯を辿り,発明と発明家がもたらした世界の変化を解説している。地球規模で一体化した世界を創出し,メディア技術の基礎を確立し,人間の距離感覚と宇宙空間を変えた10人(9つの技術)の発明家が主人公である。
世界航海用の時計を発明したハリソン,産業革命の原動力になった蒸気機関を改良したワット,巨大な蒸気船を生み出し大英帝国の基礎を提供したブルネル,蓄音機と活動写真を発明し経営者として苦闘したエジソン,電信から電話の技術を革新したベル,無線通信とラジオ放送を実現したデフォレスト,ガソリンエンジン搭載の自動車を有無出したベンツ,人間を空間に解きはなした飛行機を実現したライト兄弟,ドイツから移住しロケットとミサイルを実用化したフォン・ブラウンと発明家人生のエピソードが多彩に叙述されている。
たんなる技術の説明でなくそれが社会に根付くためのシステムとしての整備や軍事目的・利用との関係にも触れている。産業革命以来争われた発明の特許係争にも多くの紙数が割かれている。
ワットの章では,「後に『国富論』を著す経済学者アダム・スミスは教授であるとともに(グラスゴー:引用者挿入)大学の管理職も務め,ワットの就職にも便宜を図ってくれたとされている」(25ページ)と簡潔な紹介がある。
時代背景から技術の持つ意味を問うことで,発明家の偉人伝に陥っていない。明日の講義では早速紹介するつもりだ。