1128丸川哲史著『魯迅と毛沢東――中国革命とモダニティ――』

書誌情報:以文社,315+3頁,本体価格2,800円,2010年6月10日発行

魯迅と毛沢東 中国革命とモダニティ

魯迅と毛沢東 中国革命とモダニティ

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中国における五・四運動(1919年)を起点とする近代化(本書ではモダニティとルビあるいは表記)に魯迅毛沢東はどう向き合ったのか。魯迅の作品から「国民を治めるべき国家を「国民以前の人間」がそれを創るために立ち上がるかどうか」(59ページ,原文ではすべてに強調符)を指し示した道筋を,毛沢東による紅軍の整風や土地革命戦争遂行のために魯迅をして「農村・辺境区と都市との間の統一戦線を現道化させる最大の象徴装置」(152ページ)にした事情を,それぞれ入れ子の中から取り出していた。
五・四運動から反共クーデタ,いわゆる「長征」期,「文芸講話」,文革を経て現代にいたる魯迅論と毛の魯迅論を含む毛沢東論は,「陝北の知に居たころと同様,世界的規模での封鎖状況にあるという現実認識から,政治と文芸にかかわる緊張関係は遂に解除されるに至らなかった」(275〜6ページ)という中国革命およびそれを通じた独自の近代化の理解を導き出す。
「研究する対象として,文革の荒波の中で唯一といって良いほど,断絶や消去を被ることなく,継続的に資料や研究成果の蓄積が為されていたのは,実は魯迅だけで,大学に戻って来たかつての知識青年たちが,最も盛んに論じ始めたのもまた魯迅であった」(288ページ。まことに「魯迅は中国の近代(モダニティ)において最大の参照枠として生き延び続けることにもなった」(同上)。
魯迅を語りつ実は毛沢東(と現代中国の「マイナスの現象})を語るところに著者の狙いがあったのではないかと読んだ。