書誌情報:勉誠出版,xix+261頁,本体価格2,400円,2010年9月30日発行
- 作者:廉思
- 発売日: 2010/09/01
- メディア: 単行本
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中国の大卒低所得群居集団=蟻族――大学を出ている,所得が低い,一カ所に集まって暮らしている――の報告は衝撃的だった。1980年代に生まれた「八〇後」世代の彼らの大部分は農村もしくは県級市(郡部の都市)出身で,家庭の収入は低く,両親は社会の中下層という。北京地区だけで10万人以上に上り(京蟻),上海(滬蟻),武漢(江蟻),広州(穂蟻),西安(秦蟻)などの大都市にも大規模に存在している。
「中国社会の深層に横たわる問題」(246ページ)ではあるが,「出稼ぎ農民」や「農民」の問題と同時進行しながらもそれとは「本質的には全く違う」(247ページ)現象なのだ。中国における高等教育機関の急激な拡大(高等教育における職業教育の欠如),労働市場の需給アンバランス,戸籍制度など蟻族大量発生の原因はひとつではないものの,皮肉なことに教育発展計画による高等教育システムの拡充(①社会人教育の拡充と発展②「二一一工程」や「九八五工程」による重点大学化)によっていることは間違いない。
1980年代と2008年を比べると,高等教育(116万人→3092万人),中等教育(5847万人→1億204万人),初等教育(1億4627万人→1億566万人)の数字を見れば一目瞭然である。2010年の国勢調査結果によれば,人口10万人あたりの大学卒業者数が8930人と10年前の2.5倍に増えているし,都市人口比率も36.2%から49.7%に上昇している。(日経新聞2011年4月29日付による)。
将来が見えないままに群居せざるをえない高学歴ワーキングプアと月10元の水費をむしり取る貧困ビジネス。刻苦勉励し大学にたどり着き「天の申し子」と讃えられた「八〇後」世代が「下を向いた青春」を過ごさざるをえない状況は,ひとり中国的だけの問題ではないはずだ。「「無思想」の時代を生きる「漂泊の民」」(加々美光行「解説」261ページ)と格差社会・日本に生きる同世代の若者にも共通するものがある。
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