412スティーブン・グリーンハウス著(曽田和子訳・湯浅誠解説)『大搾取!』

書誌情報:文藝春秋,461頁,本体価格2,095円,2009年6月30日発行

大搾取!

大搾取!

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あらためてウォルマートの戦略はすごい。夜のシフトが終了すると同時に従業員を店内に閉じ込める。組合賛成派にたいする村八分は店長命令だ。ある州のすべての店舗で告発された児童労働違反は夜10時過ぎまで働かせたり,平日に4時間を超えたり,危険な機械操作まである。もともと安い賃金を経費削減のためとして労働時間を短くする。30分のランチ休憩も取らせず働かせる。コンピュータに記録された従業員の就労記録を削除する。床清掃業務は外部委託としながら実際は不法移民を雇い社会保障給付や労働者補償制度をのがれる。女性の年間給与を男性より少なくして差別する。
本書の扱う「搾取」の現状はウォルマートだけではない。ニューヨークタイムズ現役記者は,膨大な数の企業がこうして労働者を「搾取」し,コストを切り詰め労働者を徹底して「締めつける」(本書での言葉)常態を告発している。ウォルマートや他の企業の固有名詞を日本名にすればそのまま日本で進行中の「搾取」に重なってくる。
「王道はある」という一章で扱っている搾取経営ではない成功事例は光明だ。会員制倉庫型ディスカウント店コストコ,従業員にやさしい会社をつくるという理想を実現したティンバーランド,労働者側と広範な協調関係を築くことで成功した医療サービス会社カイザーパーマネンテ,従業員がオーナーであるコーポラティブ・ホームケア・アソーシエイツ,仕事だけでなく遊びにも取り組ませるアウトドア衣料会社パタゴニアののような企業経営と多くの労働者を組織し雇用者側への圧力になっている料理関連職従事者連盟のような労働組合の力である。
著者の主張の基礎には,経済不況を乗り切るための処方箋としての景気刺激策がある。インフラおよび教育・科学への投資とグリーン・ニューディールがそうだ。
21世紀社会が「戻ってきた19世紀」(章のタイトル)であるかぎり,良心的経営や古典的労働組合の存在意義を強調するのは意味があり,投資家を最大のステークホルダーとみなし,グローバリゼーション対応を旨とし,ごく少数の勝者を生み出すアメリカ企業の特徴と対抗軸を明確にしている。19世紀労働者受難時代は各種法的規制と労働者保護法を成立させた。21世紀労働者受難時代の帰趨は「日々のニュース,職場や工場でのぼやき,つぶやきに関心を寄せ」(湯浅誠の解説)るわれわれにかかっている。