904フィリップ・スコフィールド著(川名雄一郎・小畑俊太郎訳)『ベンサム――功利主義入門――』

書誌情報:慶應義塾大学出版会,xi+262+10頁,本体価格3,200円,2013年1月30日発行

ベンサム―功利主義入門

ベンサム―功利主義入門

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サンデルのハーバード白熱教室によって取り上げられたこともあって,ベンサム功利主義への関心はかつてなく高まったようだ。功利主義が「最大多数の最大幸福」に収斂され,一人の人命と多数のそれとの選択問題として矮小化された憾みはあるにしても,ロールズやサンデルの批判的対象としてではあれベンサム功利主義に焦点があてられたことはまちがいない。
そうした動きにベンサム研究者はどう応えるのか。本書は,ベンサムの膨大な草稿類を整理・校訂するベンサム・プロジェクト(→http://ucl.ac.uk/Bentham-Project*1のディレクターであり,著作集(書簡集全14冊――既刊12冊――,著作集全54冊――既刊14冊――)編集主幹をつとめている著者によるベンサム功利主義入門書である。ベンサムという人物やテクストの絞り込みからはじまり,哲学的叙述(功利性原理と拷問)とベンサムの意図を深める叙述(パノプティコン,政治的誤謬,宗教と性)を中心としながら歴史的文脈を明らかにしようとしている。
ベンサムその人の思想を再現する著作集編集の現場からベンサム思想の現代性を引きだそうとする姿勢が鮮明に出ている。主題別の読書案内と簡潔な訳者解題もあり,ベンサム功利主義入門書として最良のものになっている。
本書を読まずしてベンサム功利主義を語るなかれ。

*1:Defence of Usury につき,ここ数年間更新が止まっている評者のウェブが参照されている。→http://www.ucl.ac.uk/Bentham-Project/Bentham_texts