907山口拓美著『利用と搾取の経済倫理――エクスプロイテーション概念の研究――』

書誌情報:白桃書房,vi+242頁,本体価格4,000円,2013年3月26日発行

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エクスプロイテーション(英・仏:exploitation,独:Exploitation)は「搾取」「開発」「利用」などと訳されてきた。著者はこの言葉の概念的検討から「搾取」だけでなく「開発」「利用」の意味を含んでいることを確認する。そのうえでエクスプロイテーションという言葉は「「搾取」と「利用」の両語に跨がりつつ,両語の間に存在している」(iiページ)としてあえてカタカナ表記を採る。自然保護や動物愛護にも通用する概念として復活させる。
人間のみならず自然,動物,労働時間の経済倫理としてエクスプロイテーションを捉えることによってもともと持っていた意味から現代的課題に迫ろうという野心的試みになっている。「搾取」を語ればマルクスを理解したことにはならないことを教えている。
評者のベンサム論について,「「貨幣の資本への転化」における「ベンサム」が暗示する相互エクスプロイテーションと「絶対的剰余価値の生産」の一方的エクスプロイテーションの関係が明瞭になっていないように思われる」(32ページ)との批判がある。「功利主義批判という性格」(28ページ)・「功利主義およびそれと結びついた経済学を批判した」(同上)ことを看取する点では評者と著者に意見の違いはない。評者がこだわったのは「自由,平等,所有およびベンサム」の固有名詞「ベンサム」であり,功利主義一般ではなくなぜ「ベンサム」なのかであった。「相互」と「一方的」に注目したことには教えられたが,評者の問題設定とは噛み合っていないように感じた。