書誌情報:勁草書房,viii+256+iii頁,本体価格2,600円,2012年2月25日発行

- 作者:J.S. ミル
- 発売日: 2011/02/17
- メディア: 単行本
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翻訳書は『宗教三論』として知られる Three Essays On Religion, 1874. の全訳である。J・S,ミル(1806-73)の死後に義理の娘ヘレン・テーラーによって編集・出版されたものである。
本邦初訳は,小幡篤次郎によって1877(明治10)年と翌年にはたされている(第一論文と第二論文。第三論文は未刊行)。ミルの著作はこれに先立ち『自由論』(中村敬宇訳『自由之理』,1872年),『代議政治論』(永峰秀樹訳『代議制体』,1875年),『功利主義論』(西周訳『利学』,1877年)が翻訳出版されている。
「訳者解説」でも触れられているように,小幡訳は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」に収められている(→http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/815044)。原著に遅れること3年で翻訳されたのは訳者小幡と師福沢諭吉の「近代日本がキリスト教化することへの危惧」(「訳者解説」220ページ)があった。それというのも,当時の功利主義者に共通するキリスト教批判を織り込み,自然神学への批判が原著の主題になっていたからである。
ミルがキリスト教に代わって提示する「人間性の宗教」・「人類教」――「それ自体では宗教と言うべきものに達していないが,しばしば人類教あるいは義務の宗教と呼ばれている真に純粋な人間的宗教」(206ページ)――は,オーギュスト・コントによる道徳の理想化を「宗教の功利性」から論じることで独自の味付けをした。「第一論文 自然論」,「第二論文 宗教の功利性」,さらに5部構成で「神の属性」,「霊魂の不死」,「啓示」などを論じている「第三論文 有神論」――第三論文はさらに――を読み進めると,ダーウィン進化論の影響(「創造論」として第三論文第一部末尾に出てくる)や超自然的な事象にたいする「懐疑主義」などミルの立論の形成過程もみえてくる。
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