602音無通宏編著『功利主義と政策思想の展開』

書誌情報:中央大学出版部,x+564頁,本体価格6,900円,2011年3月30日発行

  • -

中央大学経済研究所所属の経済学史・思想史研究グループの共同研究の成果物で,『功利主義と社会改革の諸思想』(下記関連エントリー参照)に次ぐ2冊目となる。功利主義ないし功利主義論にかかわる研究(=倫理),政策論的含意をもった諸研究(=政策),方法論的な含意をもった諸論文(=方法)からなる。思想から政策もしくは政策思想に力点を移したものといえる。
ロールズ『正義論』による功利主義批判およびコミュニタリアニズムの立場からのサンデルによるロールズ批判を意識しつつ,19世紀末までの功利主義批判や思想の発展をふまえたラシュドール「理想的功利主義」論の検討(音無)など読み応えがある。
タイトルのもとに編集した論文集といえ,論文の独立性が強い。「白熱教室」での功利主義ベンサム,J. S. ミルに限定されていたし,J. S. ミルはベンサム功利主義を超えようとして功利主義を逸脱したと論じられていた。本書ではJ. S. ミルの功利主義を欠くが,「冷静に」功利主義の形成と変容の一端を見て取ることができる。

執筆者
第1部 功利主義:形成と変容 -
- 第1章 ベンサムの間接立法論 板井広明
- 第2章 ウィリアム・トンプソンにおける功利主義と経済思想 土方直史
- 第3章 シジウィック・ムーア・ピグー――功利主義・利己主義・正義の観点から―― 山崎 聡
- 第4章 G. E. ムーアとJ. S. ミルの功利主義 和田重司
- 第5章 「理想的功利主義」と正義論 音無通宏
第2部 経済政策論:自由と公正 -
- 第6章 ジェイムズ・ステュアートにおける「国民の精神」と経済政策 八幡清文
- 第7章 デュガルド・スチュアートの穀物貿易論と啓蒙社会の構想 荒井智行
- 第8章 リカードウ『原理』最終章の検討――第3版改訂の契機と意義―― 益永 淳
- 第9章 F. リストと主著『経済学の国民的体系』 片桐稔晴
- 第10章 L. ワルラスの土地国有化政策――動学理論から社会問題へ―― 高橋 聡
- 第11章 C. A. R. クロスランドの資本主義体制の変容に関する分析について――イギリス労働党におけるケインズ主義的社会民主主義の前提―― 八田幸二
- 第12章 J. E. ミードにおけるベーシック・インカム論と協働企業論の相補性 井上義朗
第3部 方法論的基礎:批判と認識 -
- 第13章 ヴィクトリア朝中期におえるヘレニズム――M. アーノルドの場合―― 中川 敏
- 第14章 J. M. ケインズ帰納法 泉 慎一
- 第15章 効用の個人間比較――論争で何が明らかになったか?―― 比嘉文一郎
- 第16章 帰納と経験――R. F. ハロッドにおける帰納法の展開―― 伊藤正哉