033川名雄一郎・山本圭一郎訳『J・S・ミル 功利主義論集』

書誌情報:京都大学学術出版会,434+9頁,本体価格3,800円,2010年12月5日発行

功利主義論集 (近代社会思想コレクション05)

功利主義論集 (近代社会思想コレクション05)

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(社会思想史学会年報『社会思想史研究』第36号(→https://akamac.hatenablog.com/entry/20120910/1347287624),208-211ページに掲載。208ページのみを再掲した。縦書き用表記をエントリー用に修正している。)
功利主義現代思想において大きく取り上げられるようになった契機は,ジョン・ロールズ『正義論』である。また,現代政治を動かすアメリカの政治思想は,エドマンド・バークジョン・ロックそして,ジェレミーベンサムに辿ることができ,またとりわけアメリカ庶民派の保守思想として知られる「リバタリアンLibertarian」――社会的平等よりも個人的自由の確保と国家権力の制限を重視する人々の総称――も古典的功利主義ベンサム思想に行き着くともいわれる。ケインズ功利主義を「蛆虫」と切り捨てたことやアマルティア・センが経済学と倫理学との統合を試みたときその視点の先に功利主義をおいたことも想起できる。経済思想史上は,過去の一過的な思想としてではなく,現代にも大きな影響をもっている。
マイケル・サンデルハーバード白熱教室マイケル・サンデル著(鬼澤忍訳)『これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学――』早川書房,2010年5月,マイケル・サンデル著(NHKハーバード白熱教室」制作チーム・小林正弥・杉田晶子訳)『ハーバード白熱教室講義録+東大特別講義』(上・下),早川書房,2010年10月)でにわかに功利主義が注目されるようになった。1884年の夏,4人のイギリス人船乗りが南太平洋の沖合を小さな救命ボートで漂流していた。乗っていたミニョネット号が沈没し,今持っている食料はカブの缶詰2個だけで飲み水はない。最初の3日間は,カブを分け合って食べた。4日目にウミガメを1匹捕まえた。その後の数日間はウメガメと残りのカブで飢えをしのぎ,それからの8日間は食べる物はなかった。4人のうちの雑用係のリチャード・バーカーは17歳,孤児で長期の航海は初めてだった。パーカーはほかの者の忠告にもかかわらず海水を飲み体調を崩し救命ボートの隅で横になっていた。漂流生活19日目を迎えたとき,ダドリー船長はくじ引きで誰か死ぬべき者を決めようと提案したがブルック甲板長が反(以下略,つづきは雑誌で)