542アルフレート・ネメチェク著(高階絵里加訳)『ファン・ゴッホ アルルの悲劇』

書誌情報:岩波書店(岩波アート・ライブラリー),129頁,本体価格2,800円,2010年5月18日発行

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ゴッホがピストルで自らを撃ったのは1890年7月27日のことだった。2日後弟テオにみとれれつつ世を去る。
その1年半前の1888年2月,ゴッホは南仏アルルに赴く。「変わり者」・「よそ者」・「失敗者」(11ページ)としてである。オテル=レストラン=キャレル,カフェ・ド・ラ・ガール(通称「黄色い家」)を拠点に,レングロワの跳ね橋と果樹園シリーズや多くの素描,「日没の中の種まく人」,「ひまわり」連作,「星月夜」,「アルルの寝室」などの作品を描く。
この1年あまりの期間を中心に,ゴッホの生涯を6つのエピソード――「よごれた町」,「大胆な考え」,「近代絵画」,「現実の生活」,真実の色彩」,「完璧な空虚」――で綴ったゴッホ論だ。ゴッホの芸術生活と作品への昇華を文章に,作品図とともに展開する物語は,文章だけでも,あるいは図版だけでも独立性がある。「孤独の中で育った芸術の形式を外部に広めると同時に,画家の自己鍛錬のために不可欠の手段としての役割をはたしていた」(39ページ)テオ宛手紙をもとに作品制作過程を辿りつつその成果物をみようという著者の姿勢がよくあらわれている。
25点の模写があるミレー,手紙に80回ほど登場するドラクロワ,そしてよく知られている「ジャポネズリー(日本趣味)」とゴッホの骨格を押さえ,ゴッホの最初の傑作「ジャガイモを食べる人々」(1885年),最低価格ではじめて売れた「タンギー親爺の肖像」(1887年)などアルル前の作品から最晩年の「糸杉のある小麦畑」(1889年)まで図版もファン(Van)・ゴッホ・ファン(fan)の期待を裏切っていない。

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