1557原田マハ著『リーチ先生』

書誌情報:集英社文庫(は-44-a),597頁,本体価格880円,2019年6月30日発行

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G7サミットが開かれたカービス・ベイ(Carbis Bay)の北西にセント・アイヴス(St Ives)がある。「リーチ・ポタリー」(Leach Pottery)があり,2020年に開窯100年をむかえた。サミットの話題とともに陶芸を通じて日英を架橋したバーナード・リーチ(Bernard Howell Leach, 1887.1.5-1979.5.6)や「リーチ工房」に関説した記事やニュースを期待したのだが,皆無だった。日本の政治記者の文化水準を知ることになった。
本書の主人公はふたりいる。ひとりはもちろんリーチだが(ちなみに,ラグビーのリーチは Michael Leitch と綴る),もうひとりはリーチ来日時から知遇を得て,上野,我孫子,セント・アイブスと同行したとする架空の人物・沖亀乃介である。1909年4月,1910年6月,1911年7月,1920年6月,1920年12月の点描によってリーチと亀乃介の視点から,高村光太郎柳宗悦志賀直哉武者小路実篤,富本憲吉,河井寛次郎濱田庄司岸田劉生らとの出会いと芸術活動を再現する。1954年4月と1979年4月はそれぞれ亀乃介の息子・高市(こういち)を登場させたプロローグとエピローグだ。
著者はリーチの陶芸と芸術を亀乃介の造形によって振り返り,リーチの生涯を「史実に基づいたフィクション」によって語った。日本には本書に登場する小鹿田(おんた)や小石原だけでなくリーチの残した痕跡はいたるところにある。たとえば,砥部焼については,「昭和28年,民芸運動の推進者柳宗悦バーナード・リーチ濱田庄司らが砥部を訪れ,機械化されている他の産地に比べ,手仕事の技術が残っていることを高く評価しました」と砥部焼陶芸館は記す(→https://www.togeikan.com/index.php)。益子陶芸美術館ではちょうど「益子×セントアイブス100年祭事業 バーナード・リーチ——100年の奇跡——」を開催中だ(→http://mashiko-museum.jp/exhibitions/ex210613/index.html)。「リーチ工房研修プログラム」もある。
リーチも柳も濱田も写真を何度も見ているせいか読みながら顔が浮かんできていた。