1047松尾匡著『ケインズの逆襲,ハイエクの慧眼――巨人たちは経済政策の混迷を解く鍵をすでに知っていた――』

書誌情報:PHP新書(958),286頁,本体価格880円,2014年11月28日発行

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レーガノミクスサッチャーリズム,ナカソネミクス以来,小さな政府論とそれと関連する民活民営論が経済政策の主流となってきた。それらをさらに推し進めるべくコイズミクスが登場したにもかかわらず,修正路線として民主党政権を誕生させることになった。ブレアのイギリス,クリントンアメリカも同様の動きとみることができる。新自由主義にもとづく路線一辺倒では富の偏在や格差が不可避であり,自国民の反発を招くことへの対応である。
小さな政府論でもなく民活民営論でもない経済政策の実現は可能なのか。著者は,ソ連型システム破綻をコルナイから,国家・政策担当者の役割をハイエクから,合理的期待形成による予想をフリードマンとルーカスから,制度移行の可能性をゲーム理論からそれぞれ読み取り,本書の主旋律である「リスク・決定・責任の一致」と「予想は大事」を確定する。そのうえで,ルールキーパーや各種の基本的社会・労働政策を実行する政府の役割を明示すべく,ベーシックインカムインフレ目標ケインズ復権)を検討し,構想する「転換X」を「胸三寸の「裁量的政府」から,人びとの予想を確定させる「基準政府」への転換」(278ページ)とする。
NPOや協同組合,あるいは各種事業体の発展を促すためには大きな政府は必要であり,金融や労働に関する規制はいや増している。
ケインズ理論への批判から生まれた新自由主義にもとづく小さな政府論に対峙し実現できるのは,大小政府論の「引き合い」による。場合によっては「愚直に」大きな政府論を声高に叫べ。
もとになったのは「シノドスhttp://synodos.jp)」(2013年10月24日〜2014年6月26日)連載稿「リスク・責任・決定、そして自由!」である(現在も連載が続行中)。
【追記:2015年2月17日】朝日新聞デジタル版2015年2月16日に松尾さんへのインタビュー「左派こそ金融緩和を重視するべき」が載っている(→http://www.asahi.com/articles/ASH2971TXH29ULFA043.html)。