804生熊茂実・鹿田勝一著『ブラック企業と就活・働く権利――青年に希望を 悪質企業を見分ける確かな眼――』

書誌情報:本の泉社(労働総研ブックレット No.7),71頁,本体価格571円,2012年12月1日発行

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「若者が,元期に明るく働き続けられる条件づくりこそ,日本社会の未来につながる」(6ページ)。この思いでブラック企業の実例とブラック企業化する現状を示し,背景・原因と対処法を述べた実践的なブックレットである。
日本IBM,和民(2012年「ブラック企業大賞市民賞」受賞!),従業員1000人のあるIT企業,ウエザーニュース,ローソン100宮古毎日放送すき家,ベルリッツ・ジャパン,阪急トラベルサポート,ソーラーシリコンテクノロジー,日本NCRなどでの事例は,使用者側弁護士が個人加盟の合同労組を組合ではないと主張する裁判やストへの損害賠償訴訟,刑事告訴,街頭宣伝の禁止など市民的・社会的権利にかかわる争点になっていることを明らかにしている。公務公共部門における非正規職員の急増にも触れ,ブラック企業化に警鐘をならしている。国家公務員では13万5000人,自治体では約70万人,公立小中高では約20万人,私立高校教員では3万4000人(37%)が非正規職員である。
ブラック企業増加の背景・原因として,労働力の需給状況の変化,労働政策・雇用政策の変化,成果主義経営方式,競争原理の徹底,労働組合運動の弱体化にまとめている。個別企業の対応が問題ではないという労働運動の側からの分析である。
ブラック企業に立ち向かうためにはどうすればいいか。第1の対処法は「見分ける」である。著者が挙げているのは,企業規模に比べて求人数が多い,就職人気ランクが低下している,定昇・ボーナスがない,企業理念を確かめるである。ブラック企業に入る前の事前策である。
入ってしまってからの対処法は,なによりも労働組合の力だと力を込めている。さらにブラックだと思ったら,メモし,録音し,事実を記録し,「まともな労働組合」――これがもっとも難しい――への相談と行政機関(きわめて限定的であることに留意)や弁護士への相談を勧めている。
「ブラック」というキーワードを通じて,「新・就職氷河期」と言われるなかでこそ働く人々の権利や労働条件などに視点を定めることができるとも言える。ブラック企業と名だたる大企業の「隔離部屋」,「地下牢」,「姥捨て山」,「市中ひきまわし」やリストラという名の馘首とは同じ穴の狢である。