519円道まさみ著『フライドポテトと戦闘機――オバマ時代のアメリカ事情――』

書誌情報:新日本出版社,221頁,本体価格1,500円,2010年5月15日発行

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軽いタッチながらも真っ正面からオバマ神話に挑戦している。著者は,サンフランシスコの非営利団体でホームレスおよび低所得者精神障害・薬物中毒・HIVエイズ問題を抱える人々のケースワーカーとして働いている。
オバマは白人社会で成功するために,黒人としてのアイデンティティを抑え,労働者階級の黒人から出来るだけ距離を置くことで白人の承認を得た」(34ページ)。アメリカで有色人種が政治の表舞台で成功する条件をクリアしているのがオバマというわけである。その条件とは,白人の前で人種の話は避ける,人種の話を避けられない場合はアメリカがどれだけ差別を克服してきた素晴らしい国かを強調する,白人の前で有色人種の擁護をしない,白人が築いてきた格差社会を批判しない,だ。オバマはこう演説した。「アメリカを二分しようとする人々がいる。私は言いたい。アメリカにはリベラル派も保守派もない。黒人のアメリカ,白人のアメリカ,アジア人のアメリカもない。あるのはアメリカ合衆国だけだ。」と。
イラクやアフガンで戦争しながらケチャップをつけたフライドポテトを食べながら航空ショーを観る普通のアメリカ人,社会福祉・公共医療業務をチャリティの一環のように考える大国の素顔,市民運動を組織・運営している圧倒的多数の白人エリート,二大政党制の呪縛など著者の視線はアメリカの現実を確実にとらえている。社会の底辺に視点を定め,結果ではなく過程を見ようとの著者の姿勢にはアメリカで働くケースワーカーとしての経験が生きていると実感した。
アメリカという社会は,とてつもない権力が支配している国でもあり,同時に,その権力の濫用を許さない人が立ち上がる国でもある」(195ページ)。誰かが言っていたという言葉は「同盟国・日本」のアメリカ追従外交政策の誤りを暗示していよう。「エンパイヤー(帝国)は同盟国をもたない。もつのはパベット(操り人形)だけ」(181ページ)。けだし名言だ。