書誌情報:光文社新書(401),248頁,本体価格760円,2009年4月20日発行
- 作者:三木義一
- 発売日: 2009/04/17
- メディア: 新書
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税徴収の極意は羊たちの毛刈りのようにすべしと公言した元首相がいた。本書は日本のサラリーマン=羊たちの税金問題をわかりやすく解説した最初の本(かもしれないとトーンダウンしておく)だ。本ブログでもっとも参照の多いエントリーは著者の確定申告の手引きをもとにしたものだった(下記関連エントリー参照)。
給与明細の所得税の収入金額,必要経費(給与所得控除,特定支出控除,実額控除制度など),控除(基礎控除,扶養控除,配偶者控除,医療費・保険料など),年末調整,出向・解雇・倒産と税金,退職金・年金と税金とサラリーマンのライフサイクルに沿った解説がある。
大島サラリーマン訴訟は原告負け,給与所得控除合憲となった。この裁判以降給与所得控除の引き上げが実施されており,実際は勝ったといっていい(第2章に詳しい)。源泉徴収の枠から逃れられない羊たちはまず本書を読んで知恵をつけよう。
各章末尾にポイントをまとめている。それを眺めるだけでも参考になるはずだ。
- 「第1章 給与明細の謎」のポイント
- 手当は基本的に課税される。
- 配偶者手当は,配偶者に103万円以上収入があると支給しない会社が多い。
- 深夜勤務の際の,ホテルの宿泊代・帰宅のタクシー代は課税されない。
- 宿直・日直手当は1回につき4000円以下(食事代含む)なら課税されない。
- 深夜勤務の際の食事代は,1回につき300円以下なら課税されない。
- 通勤手当は,月10万円までなら課税されない。
- 以下の手当などは業務上必要だったり,社会通念に照らして妥当ならば原則課税されない:出張の旅費・日当,転居費,制服,在外手当,見舞金,社員・研修旅行費など。
- 社会保険料は実質上課税されない。
- 財形貯蓄は,財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄の2つの元利合計が550万円までなら利子に課税されない。
- 組合費に税金の控除はない。
- 源泉徴収の額がまちがっていたら,税務署ではなく会社に是正してもらうしかない。
- 賞与(ボーナス)の源泉徴収の計算方法は,月々の給与とは違う。
- 社会保険料の金額の確認はその月の給与明細からは困難。
- 「第2章 必要経費の謎」のポイント
- サラリーマンには,原則必要経費は認められていない代わりに,給与所得控除がある。
- サラリーマンの必要経費としてよく指摘されるものは,①本代,新聞代,資料代 ②交際費 ③電話代 ④背広,靴,かばん,文房具などの消耗品 ⑤自分で買った業務用に使用するパソコンなどの備品代 ⑥自分の能力を高めるための英会話学校,パソコン教室の授業料 ⑦車で通勤している場合の車の減価償却費,自動車税など ⑧慶弔費 ⑨昼食代。
- 配偶者が内職などをしている場合,給与所得者と同様に,65万円を控除してよい。
- 特定支出控除制度は,サラリーマンの支出した必要経費すべてではなく,通勤費や引っ越し費用など,特定の支出のみを控除できるようにした制度だが,ほとんど利用されていない。
- 通勤者の譲渡損失は給与所得と相殺できない。
- 「第3章 控除の謎」のポイント
- 所得税=課税総所得金額×税率(課税総所得金額=総所得金額−各種の所得控除)。
- 生活に困窮している場合は年間約90万円までは非課税で受給できるのに,自分で稼ぐ場合は所得が年間38万円以上になったら課税される。
- 子どもや両親などがいる人が扶養控除を受けるには,その人と「生計を一」にしていることなどが条件になる。
- 自分の子どものアルバイト収入が年間103万円を超えると,扶養控除が適用されない。
- 親族が受け取る年金が年間158万円までの場合,65歳以上の親族なら38万円,70歳以上の親族なら48万円を控除できる。
- 配偶者の給与収入が年間103万円までなら配偶者控除が,年間140万までなら配偶者特別控除が適用される。
- 配偶者控除は,内縁関係の場合は適用されない。
- 年間10万円を超える医療費は医療費控除の対象となる。ただし,会社で年末調整してくれないので,自分で確定申告しなければならない。
- 社会保険料,生命保険料,地震保険料,寄付金などはそれぞれ所得控除の対象になる。
- 配偶者と死別後や離婚後に結婚していない人は,寡婦・寡夫控除の対象となる。
- 「第4章 年末調整の謎」のポイント
- 「第5章 出向・解雇・倒産と税金の謎」のポイント
- 会社にとって,正社員を雇うよりも,派遣会社から人を調達した方が,消費税の負担が軽くなる。
- 1年以上の海外勤務の場合,払われる給与は「国外」の所得になり,日本では課税されない。
- 会社が倒産した場合,労働者健康福祉機構に請求すると,未払給与の8割は支給される(ただし上限があり,最高でも45歳以上の人で296万円)。
- 2012年の適格退職年金制度廃止に伴い,在職中なのに一時金が支給されることがあるが,税務署はこれを給与所得として課税したがる。
- 「第6章 退職金・年金と税金の謎」のポイント
- 関連エントリー
- 原稿料・印税収入がある人のための確定申告→https://akamac.hatenablog.com/entry/20080214/1202976526