書誌情報:NHK出版,365頁,本体価格1,800円,2009年9月30日発行

- 作者:ローズ ジョージ
- 発売日: 2009/09/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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世界の10人に4人が掘り込み便所(ぼっとん便所?)も,便器も,バケツも,箱さえもない暮らしているという。1グラムの便には,1千万個のウイルス,100万個のバクテリア,1000の寄生虫,100の寄生虫の卵を含んでいる。不適切な衛生環境に住めば,毎日10グラムの便を摂取していることになる。これら世界の10人に4人は野原や道ばたで排泄し,5歳以下の子どもの死亡原因はエイズ,結核,マラリアを抑えて下痢と肺炎が第1位を争う。
これに対し,ある国では,トイレにどんどん改良が加えられ,デザインが重視され,ほかの発明品と同等の敬意が払われ,出るときも引っ込むときも43度の角度を保ったノズルでわれわれのおしりを水で流してくれる。
ウォッシュレットによる日本のトイレ革命――ただし,革命が成し遂げられたが,その革命が驚くほど世界に広がっていない――を口火に,ロンドンの下水道,水問題を優先させ衛生を後回しにした南アフリカのトイレ事情,今なお人間の糞便を処理する50万人にものぼるインドのアウトカースト「バンギー」(「指定カースト」,「ダリット」),中国のバイオガス,世界の公衆トイレ,下水汚物から作ったアメリカのバイオリソッド,ふたたびインドの野外排泄,インドとアフリカのスラムと,広く公衆衛生や環境問題をも扱っている。
イタリアのミラノには最近まで下水設備がなく汚物をそのままランブロ川に垂れ流しだったし,EU本部があるブリュッセルも6年前まで垂れ流し。発展途上国の下水汚物の90パーセントは海,川,湖に垂れ流し。人の一生のうち3年間をトイレで過ごす。水洗トイレが最高のトイレではない。コンポスト機能をもつ掘り込み便所や安定化池が適切な国や地域があるのだ。そして,トイレが排泄物や工場排水の安全な処理の問題と深く関わっていることをあらためて考えさせられた。
原書のタイトルは 'The Big Necessity: the unmentionable world of human waste and why it matters' 。まじめな「くそ」「うんこ」の話には恥を捨ててしっかりと目を向けないといけない。
- 関連ウェブとエントリー
- 本書では省略されている原注(pdfファイル30ページ)→http://www.nhk-book.co.jp/recommend/toilet/toilet.pdf
- 前田裕子著『水洗トイレの産業史――20世紀日本の見えざるイノベーション――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20081010/1223631971
- 1年前のエントリー
- Keizai Koho Center, Japan 2009: An International Comparison→https://akamac.hatenablog.com/entry/20081227/1230367462
- 大学犬はなちゃんの日常(その93)→https://akamac.hatenablog.com/entry/20081227/1230367463
- 《一言自省録》はなちゃんシリーズのNo.100だった。今年も日向ぼっこシーンを撮ろう。
- 2年前のエントリ
- 岡田芳朗・池上俊一・中牧弘允著『古今東西カレンダー物語』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20071227/1198747663
- 平田清明著作目録ブログ版(1963)→https://akamac.hatenablog.com/entry/20071227/1198747664
- 《一言自省録》年末年始などというのも「横暴な切り刻みの規則性を押しつけ」たものだ。