書誌情報:日経BP社,343頁,本体価格1,900円,2009年3月2日発行
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主人公は,山下汽船・山下亀三郎,鈴木商店・金子直吉と金融エリート・井上準之助である。前二者は成金といわれそれぞれ泥亀,白鼠といわれ成金の代表格とされる。鈴木商店は倒産し,山下汽船は日本郵船,大阪商船に次ぐ地位に押し上げる(最終的には商船三井になってしまうが)。成金といわれながら対照的な軌跡を辿る。他方,財閥を政商から企業コンツェルンと変えていくエスタブリッシュメント。成金の帰趨,成金とエスタブリッシュメントとの確執を軸に昭和恐慌期にそれぞれ対照的に描き,政治と財界と結びついたエスタブリッシュメントの勝利とナショナリズムに直進し敗戦に結果する破滅への道をトレースする。
たしかに成金は今でいえばベンチャー企業だ。財閥も初めは成金だった。勝敗からすれば当時の成金は権力と結びついた財閥に負けてしまったが,財閥が天皇制への滅私奉公を優先し,自己保身に走り,公共性を実現する立場で企業活動を続けたわけではけっしてない。
「「公」のしくみをいかに共有するか」(あとがき)という観点から昭和恐慌期の企業活動を見るのは一つの歴史検証の立場であり,かつ著者の問題意識の斬新さをみてとることができる。戦争や自然災害を契機に焼け太る財閥系企業の本質を指摘する粘着性は本書の魅力のひとつだろう。財政・金融政策の有効性や為替本位制について議論されがちな昭和恐慌期。企業間の生き残りをかけた駆け引きと競争が深くかつ広く進行していたし,鈴木商店の流れをくむ企業群(神戸製鋼所,帝人,双日,IHI,サッポロビールなど)が21世紀にも活動している。当時のベンチャー企業の遺伝子の継承と企業盛衰に思いを収斂させるとき,買った負けたのはかなさを感じざるをえない。
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