679三河市民オペラ制作委員会編著『三河市民オペラの冒険――カルメンはブラーヴォの嵐――』

書誌情報:水曜社,278頁,本体価格2,200円,2011年7月12日発行

三河市民オペラの冒険 カルメンはブラーヴォの嵐

三河市民オペラの冒険 カルメンはブラーヴォの嵐

  • 発売日: 2011/07/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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プロが演じるオペラを市民が観る。これが「オペラという金食い虫の「総合芸術」」である。これにたいして市民オペラは演じる側も(ソロはプロ)観る側も市民で,赤字を出さない。さらに,参加者が感動する。そうした市民参加のオペラとビジネスモデルを構想した三河市民オペラの物語が本書だ。
市民オペラは蒲郡市制50周年記念オペラ「カルメン」の上演から始まった(2004年12月26日)。さらに豊橋市制100周年記念オペラ「魔笛」の上演(2006年12月17日)を経て,三河市民オペラ「カルメン」の2日間公演(2009年5月30日,31日)と続く。政策委員会の立ち上げ,政策方針の策定,演出家・指揮者・合唱指揮者の依頼,オペラセミナーの開催,雑誌のようなプログラムなど作り手から観客にいたるさまざまな取組があった。公開オーディションから撮った写真展や合唱団懇談会までも記録してある。
カルメン」は最終的に,チケット収入45.7%,助成金26.1%,協賛公告19.5%,DVD売上3.2%,合唱団参加費2.4%」で繰越金を残すことができた。それでも助成金と協賛公告がないと収支はとれない。重い現実があるにしても,参加する市民が全体のプロジェクトを理解し,チーム力を結集させた過程は見事である。素人集団の地元経済人たちがつくりあげた市民オペラは佐川吉男音楽賞奨励賞,愛知県芸術文化選奨新人賞,東愛知新聞社特別社会賞を受賞した。「関わった人たちに感動をしてもらうことでしか,制作する人間の感動は生まれない」。
委員会形式ながら海外の歌劇場運営と同様の手法をとり,芸術面のサポートを東京二期会から得て,三河ならではのネットワークを利用することで話題づくりにも成功した。「市民オペラを通じたビジネス・モデル」の構築は,2013年5月の「トゥラーンドット」の上演でも試される。