267島本慈子著『ルポ 労働と戦争――この国のいまと未来――』

書誌情報:岩波新書(1158),ix+195頁,本体価格740円,2008年11月20日発行

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戦争を支えるのは兵士だけではない。在日米軍基地,自衛隊,兵器産業,公務員,大学,農業などこの国の細分化されたひとりひとりの仕事=労働によっても支えられてもいる。民と軍との境が曖昧にされていることで自分の仕事が戦争とは結びつきそうもない。著者の着眼はこの境にある。
在日米軍基地で働く日本人は約2万5千人。そのうち日本政府が賃金を負担している人は約2万3千人だ。防衛省中央調達企業は三菱重工業(3,275億円),三菱電機(961億円),日本電気(717億円),川崎重工業(668億円),東芝(570億円),富士通(442億円),富士重工業(374億円),小松製作所(334億円),IHI(320億円),川崎造船(314億円),中川物産(216億円),日立製作所(198億円),新日本石油(162億円),コスモ石油(148億円),日本製鋼所(129億円)と続く。これら企業の傘下には多くの下請けがある。正規雇用から非正規雇用まで多くの雇用が軍需と結びついている現実がある。
われわれの日々の営みが戦争を支えているのだとしたら,「専守防衛」の国,平和の国のわれわれが考えなければいけない現在進行形の戦時がある。
「武力を使って平和をつくることは,とても難しい…しかし武力を使わなくても,平和をつくることは難しい」。どちらも難しいならば,武力をつかわなくてすむ道を選ぼうという著者の思いは非現実的とは思わない。
と書いて,前田朗「軍隊のない国家で憲法第9条を考える」(『日本の科学者』2009年1月号)を読んだ。世界には軍隊のない国家は27あるのだという(以下表記はママ)。ちなみに,前田によると,運用実態からいえば9条は非武装憲法ではなく重武装憲法である。
(1)ミクロネシアミクロネシア連邦パラオマーシャル諸島キリバスナウル
(2)ポリネシアサモア,トゥヴァル,クック諸島,ニウエ)
(3)メラネシアソロモン諸島,ヴァヌアツ)
(4)インド洋(モリディブ,モーリシャス
(5)欧州(リヒテンシュタインアンドラサンマリノ,ヴァチカン,モナコアイスランドルクセンブルグ
(6)中米・カリブ海ドミニカ国グレナダセントルシア,セントヴィンセント・グレナディンズ,セントクリストファー・ネヴィス,パナマコスタリカ
前田が言うように,国家は軍隊を持つのが当たり前とは必ずしも言えないということだ。戦争放棄,不戦条約,国連憲章の武力不行使原則もある。戦争放棄の道は非現実どころか現実の選択肢のひとつといえないだろうか。