111フランスの「赤いセーター事件」

冤罪事件に関心をもっている人にとってはいまさらながら,白取祐司(北海道大学大学院法学研究科教授)「誤判防止と刑事訴訟法の課題――えん罪を生まないために何をすべきか――」の講演を聴き,1974年6月発生したフランスの「赤いセーター事件」を知った。白取は,ジル・ペロー著『赤いセーターは知っていた――フランス近年最大の冤罪事件――』(上・下,日本評論社,1995年,上[isbn:9784535510258]・下[isbn:9784535510265])の訳者である(評者未読)。
学生向けの講演ということでこの事件の詳細を紹介し,冤罪を生まないためとして,①全面的な証拠開示の実現,②取り調べの全面可視化と弁護人の立ち会い,③適正な事実認定の実現,を主張していた。フランスではこの事件をきっかけに死刑廃止(さらにウトゥロ事件を教訓に誤判防止法)という制度改革と適正な事実認定によらなければ有罪とされないことの重要性を指摘してまとめていた。
最高裁白鳥決定(1975年5月20日)や80年代の4大死刑最新無罪事件(免田事件,財田川事件,松山事件,島田事件),さらには最近の冤罪事件(志布志事件,氷見事件,足利事件布川事件)についてはごく簡単に触れ,刑事訴訟法の条文解釈からではなく,「赤いセーター事件」を例に誤判防止のための仕組みをどう考えるかという法的制度に絞った講演だった。