723小田内隆著『異端者たちの中世ヨーロッパ』

書誌情報:NHKブックス(1165),334頁,本体価格1,300円,2010年9月25日発行

異端者たちのヨーロッパ (NHKブックス)

異端者たちのヨーロッパ (NHKブックス)

  • 作者:小田内 隆
  • 発売日: 2010/09/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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NHKスペシャルキム・ジョンウン 北朝鮮 権力の内幕」(→http://www.nhk.or.jp/special/detail/2012/0513/index.html)は,キム・ジョンウン世襲によって最高権力者になるまでを追っていた。世襲という方法でしか継承と国家の正統性を主張できないとすれば,キム・ジョンウン体制による北朝鮮は長く続くはずがない。権力基盤の危うさは国際的に孤立する対外姿勢と無関係ではないはずだ。
中世ヨーロッパにおけるキリスト教の正統と異端を論じた本書は,異端の背後にある権力関係に注目し,封建社会を支えていたカトリック教会による「悪魔の陰謀」論を相対化している。正統と異端は絶対的なものではなく歴史的に規定される相対的なものであるとする堀米庸三著『正統と異端――ヨーロッパ精神の底流――』(中公新書,1964年12月,[isbn:9784121000576])以来の立脚点を,異端の物言いを拾い上げることで展開させた苦心作である。異端者が論じた資料は教会からすれば異端であるがゆえに闇に葬られてきた。教会の応答から異端の諸相を読み取り,「社会・文化的なトポス」を探っている。
中世ヨーロッパの主要は異端は,カタリ派,ワルド派,聖霊派=ベガンという。教会が異端とレッテルを張り,教会(=社会)から排除するその理由を明らかにしようというのだ。異端とは「神が啓示した心理に対する進行からの逸脱」(33ページ)として「創造」され,聖書の聖典化と使徒的継承による制度化を経て,世俗化するキリスト教の秩序形成と深く関係していた。「グレゴリウス改革以来,教皇の至上権に対する不服従が正統と異端の地平を決定づけた」(310ページ)。世俗国家と教会との分離は教会の社会におけるイデオロギー装置としての役割を終え,信仰は個人で完結する。封建社会から近代社会への成立を背景にしてである。
キリスト教異端の物語はたしかに宗教と権力との関係を前提としてはいるが,なにかしら中世社会とキリスト教社会を超えて人間社会の権力装置創出を暗示させている。