書誌情報:慶應義塾大学出版会,viii+244頁,本体価格2,400円,2012年4月16日発行
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『資本論』の史的唯物論の一部としての叙述および『資本論』の数学的証明(と修正)によって最適成長モデルを提示する著者ならではのマルクス経済学である。京都大学31年間の学習・研究を慶應義塾大学でのマルクス経済学講義に生かすべき書き下ろされた意欲的テキストである。
置塩理論と新古典派理論をもとにした最適成長モデルを方法論として,マルクスの人間観と新古典派の合理的人間像との接点の指摘,物量単位での最適化成長モデルに代わる投下労働量単位での表現を最大の特徴としている。『資本論』で言えば,商品論・貨幣論,剰余価値論,再生産表式を含む蓄積論にその内容を絞り,資本主義以前の社会に多く言及することによる社会認識の大事さを論じている。「マルクス主義政権でなければ(あるいはマルクス主義者がいなければ)社会は新しい生産様式,新しい生産関係に進めないわけではない」(168ページ)。
人類史の大きな理解と古代から現代にいたる典型的な事例を織り交ぜた大西マルクス経済学は大胆な輪切りと数理的精緻さとをあわせもつ。「「株式会社制度」にはその発展によって新たな可能性が拓かれるにしても,やはり依然として改善されるべき問題が存在する。しかし,そのことを逆にいうと,大衆株主の利益を守りながら,株式会社制度の改善が行えることを示している。こうした方向性で,市場システムを前提とする真に「社会化された(企業による)社会」,すなわち「社会主義社会」の建設を構想することが可能である」(153ページ)。資本主義社会の洞察としては核心部分であろう。
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