797日野秀逸・大村泉・高橋禮二郎・松井恵編著『研究不正と国立大学法人化の影――東北大学再生への提言と前総長の罪――』

書誌情報:社会評論社,237頁,本体価格2,000円,2012年11月25日発行

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前著『東北大総長 おやめください――研究不正と大学の私物化――』(社会評論社,2011年3月,[isbn:9784784514816])は未読だ。あまりにドロドロしたタイトルだったことと経緯については情報を持っていたことがあったからである(関連エントリー参照)。件の総長が3月で「任期満了」したこともあり,冷静に判断してみようとの思いから本書を繙いた。
告発されている前総長(金属ガラスの「世界的権威」)の論文数と外部資金の額は半端ではない。論文数は2006年時点で2000編,90年代からは毎年平均で100編ほどを量産し,2001年の1年間で201編,2007年の1年間で223編にのぼる。外部資金は2000年から2006年で約140億円,1996年から2010年までで210億円である。山中伸弥教授を中心とする iPS 細胞研究や再生医療研究に10年間で200〜300億円(その後,1000億円)の研究費を集中的に投じるという。ノーベル賞級の研究だったことになる。
研究者としての能力があっての結果といえなくもないが,1990年代から進められてきた特定分野に重点的に注入するという日本の科学技術政策が背景にある。2004年の法人化以降は国からの運営費交付金を減らし,競争的資金や外部資金で補なわざるをえない環境が拍車をかけた。
こうした背景や研究不正(「二重投稿」や「研究不正」),大学の対応を詳述しているほか「研究不正疑惑」から始まった問題が「一つの不正を認めれば全体が崩れる」構図を鋭く指摘している。「多重投稿やデータの使いまわしなど,驚くほど多数の研究不正疑惑」・「生データと著しく異なる内容に改変された論文」(127ページ)が発覚したことになる。『ネイチャー』によって「研究不正疑惑」にたいする大学,学会,公的機関の対応が批判されることになった。
「研究不正疑惑」解消が大学の管理運営と関連していたとするなら,前著での「大学の私物化」は適切な表現だったことになる。