831エリック・オルセナ著(吉田恒雄訳)『コットンをめぐる世界の旅――綿と人類の温かな関係,冷酷なグローバル経済――』

書誌情報:作品社,258頁,本体価格2,200円,2012年7月30日発行

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行間に散りばめられた比喩や連想と簡潔な文章が好対照をなしている。マリ,アメリカ,ブラジル,エジプト,ウズベキスタン,中国を旅したアオイ目アオイ科フヨウ連ワタ属の多年草=綿をめぐる物語はグローバル経済の縮図であることを示している。
いまだにコルホーズ的栽培を続けるマリ,1ドルの売上に対し行政が1ドル払うアメリカの手厚い補助金制度,アマゾン流域の森林破壊と土地の不正収奪を「放任」するブラジル,大土地所有を禁止し「古典社会主義型国家」のエジプト,独立を果たしたものの国家的事業として国家経済を支えるウズベキスタン,零細経営と低賃金という資本主義の市場を国家として推進する中国。
カーギル,ダナヴァント,ルイ・ドレフェス,ラインハルトの「多国籍企業」が過半の綿取引を牛耳る。世界で作付けされる綿の3分の1以上はいまや遺伝子組み換えによるという。アグリビジネスの牙は綿にも及んでいるのだ。
先進国の食糧援助が被援助国の農業と競合し,古着の人道支援が被支援国の商品棚に並ぶ。廉価な中国製品が市場を席巻する。グローバリゼーション下の世界経済はかくも複雑で冷酷である。