1006仁科邦男著『犬たちの明治維新――ポチの誕生――』

書誌情報:草思社,335頁,本体価格1,600円,2014年7月25日発行

犬たちの明治維新 ポチの誕生

犬たちの明治維新 ポチの誕生

  • 作者:仁科邦男
  • 発売日: 2014/07/19
  • メディア: 単行本

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犬はポチ,猫はタマと相場が決まった理由はなにか。それを執拗に追跡したのが本書である。
飼い犬以外は撲殺するという畜犬規則が制定され,前著『犬の伊勢参り』(関連エントリー参照)と本書全体で触れている特定の飼い主がいない里犬(村犬や町犬)の存在が許されなくなる。最初の東京府での制定(明治6年)以降全国規模で普及する(明治15年ごろ)。時を同じくして犬の飼犬化と洋犬化が進む。さらに文部省編集の新しい国語教科書にポチが登場したことによって,犬=ポチが成立した。ポチ誕生に埋もれてしまった里犬絶滅の盛衰史が本書のテーマである。ちなみに,犬といえばポチになったかについては著者の確信は,ぶち→パッチ→ポチ変化である。
よく知られているペリーの犬,横浜外国人居留地の犬,明治維新前後の犬にまつわる歴史解読,西郷隆盛の犬などを登場させた犬視点の幕末・明治維新論として出色のノンフィクションになっていた。
「うらのはたけで,ぽちがなく」の「花咲爺」(田村虎蔵作曲,石原和三郎作詞)は『教科適用 幼年唱歌・初編』(1901(明治34)年)初出という。評者が実家で飼っていた犬は歴代「ポチ」だった。田舎の少年にまで刷り込まれていたポチの秘密が解けた一書でもあった。