1003仁科邦男著『犬の伊勢参り』

書誌情報:平凡社新書(675),255頁,本体価格800円,2013年3月15日発行

犬の伊勢参り (平凡社新書)

犬の伊勢参り (平凡社新書)

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犬が単独で伊勢参りをしたかどうかの虚説を謎解き,神宮に纏わる穢観に由来する犬狩りや生類憐れみとの関連を紐解く痛快犬物語である。
飼い主の所書や代参を示す札とひもに通した銭を首から下げた犬は,村から村へ送られて公的な存在になっていく。村役人や継ぎ立て人が,宿から宿へ物資や書状を運ぶ。犬の飯代は銭から支払われるが,施行としてそれ以上の銭がふるまわれ,参宮して帰参する。犬が自分の意思で伊勢参りしたわけではないが,犬の伊勢参宮は実例という。津軽黒石の犬の参宮例が「日本の犬の単独旅行最長記録」(71ページ)・「日本における犬の長距離単独旅行記録」(203ページ)というから名犬ラッシー並である。
里犬,町犬,村犬として特定の飼い主がいなくても存在が許されていればこそ伊勢参りの犬が出現した。明治の世になり,畜犬規則によって飼い主がいなければならないとされた時に,伊勢参りの犬はこの世から消えた。
犬の伊勢参りは江戸期の人びとの夢物語であると同時に人間の意を体現した犬の代理行動でもあったのだ。