1105ジェイコブ・ソール著(村井章子訳)『帳簿の世界史』

書誌情報:文藝春秋,381頁,本体価格1,950円,2015年4月10日発行

帳簿の世界史

帳簿の世界史

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「会計事務所は」「多くのケースでは,悪徳企業や無責任な政治家の前になす術がなかった。そして最悪のケースでは,会計不正を指導する有能なプロとして立ち回ったのである」(311ページ)。東芝不正経理問題では歴代社長3人が辞任した。監査法人がはたすべき役割を想起させるに十分な事件ではあった。
簿記と会計は著名人や権力を握るものたちのみならず国の浮沈をも左右した。複式簿記に表現される会計収支の公明さと透明性こそ著者が描く世界史の教訓だろうか。
教会法で金融業が禁じられていたイタリアで帳簿が秘密裏に作成されたこと,富を独占したオランダが国として複式簿記を取り入れたこと,フランス絶対王政を丸裸にしたコルベール,経営に確立と原価計算を取り入れたウェッジウッド,鉄道会社が大企業に発展する過程で粉飾決算を監視するために誕生したアメリカの公認会計士制度,監査とコンサルティング業を兼ねるアメリカの会計事務所の問題など欧米における帳簿の世界史は壮大だった。
数字の世界に必要なことは「会計が文化の中に組み込まれてい」(334ページ)ることである。会計は「規律ある会計」・「歴史的・倫理的取り組み」・「古い教訓」・「信仰,倫理,政治,芸術」など「文化的な高い意識と意志こそ」(336ページ)必要なのだ。
経済思想史上語られるケネー『経済表』とハーヴェイ『血液循環論』,イタリア式簿記との関係は触れられていない。