859佐々木実著『市場と権力――「改革」に憑かれた経済学者の肖像――』

書誌情報:講談社,334頁,本体価格1,900円,2013年4月30日発行

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小泉「構造改革」で不良債権処理と郵政民営化を中心的に担った竹中平蔵を論じながら,経済学の意味を問う力作である。
政策志向(=政治への関与)とレーガノミクスや反ケインズ経済学の土壌という竹中の出自,最初の著書における共著論文の単著扱いと他人の著作の内容を自分の思い出話にすり替えた紹介――「言論の基本的ルールを逸脱しているがゆえに,言論戦に敗れることがない」(322ページ)――,不動産売却をめぐるスキャンダルは本書の伏線でしかない。
「「小泉―ブッシュ政権」関係を見るときには「竹中」を,「竹中―ブッシュ政権」関係を見るときには「小泉」を,そして,「竹中―小泉」関係を読み解くためには「ブッシュ政権」の存在を挿入して考えなければならない」(144ページ)と看破しているように,小泉・竹中路線は時のアメリカ政権の政策と軌を一にしていた。
不良債権処理という課題を処理し金融改革を断行したシナリオは,「ウォール街の雄であるゴールドマン・サックスを日本に呼び込むこと」(189ページ)・「ウォール街の金融資本を日本に導入する」(190ページ)ことであった。りそな銀行処理は「自らの手は汚さず,監査法人を指嗾(しそう)して銀行を破綻させ,公的資金投入を実現する」(217ページ)ものだった。
郵政民営化は,ブッシュ政権の「要望」に応えるべく,金融部門(郵貯簡保)の切り離しを徹底し,竹中の「ゲリラ部隊」による「四分社化案」を「日本政府案」にした政策形成プロセスの「電光石火の早業」(245ページ)であった。
そしてこれら小泉(=竹中)構造改革によってあらたなビジネスをアメリカと日本の関係資本に「インサイド・ジョブ」の果実をもたらす。構造改革は誰のための改革だったのか。「ホモ・エコノミカスたちによる,ホモ・エコノミカスのための革命」(327ページ)だったのだ。
安倍政権の産業競争力会議の中枢メンバーとしてふたたび表舞台に戻ってきた竹中。アベノミクスの狙いが奈辺にあるのかのリトマス試験紙になる。