1426佐藤郁哉著『大学改革の迷走』

書誌情報:ちくま新書(1451),478頁,本体価格1,200円,2019年11月10日発行


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昨今の大学改革や大学教育を論じる時,「競争的環境の中で個性が輝く大学」(大学審議会1998年答申の副題)が強調され,また,シラバス,FD・SD,TA・ RA,AL,DP・CP・AP,PDCA,「選択と集中」,KPI,SGU,COCおよびCOC+などの言葉が改革と教育の最前線とみなされてもいる。本書は,文科省で大学改革を主導してきた大学審議会や中央教育審議会の答申の首尾「不」一貫性や「改革」を声高に叫ぶ特徴,さらには面従腹背あるいは過剰同調する大学現場,専門家がいない教育再生会議「怪」など痛快に論じている。

いまや大学の必需品であるシラバスは,講義担当の教員が自らの裁量と責任のもとで作成し多彩であってこそ意味を持つのに,画一化されてしまっている。PDCAも適用可能な対象や範囲が限られているのに大学改革(行政改革でも)で金科玉条視されてしまっている。数多く見ることができるポンチ絵や図解は著者に言わせれば「PDCAサイクルという名のP」(128ページ)である。

大学の個性を出すべき企図された「選択と集中」は,拠点形成事業のように「毒まんじゅう」であり,「広くて薄い集中」である。また,KPIは目標と指標との混同があり,成果目標とされている。

「教育のあり方に関わる国家政策を立案する際には,広い範囲の人たちの意見に対して謙虚に耳を傾ける一方で,他方では専門的な見地から,そのような個人的体験や主観的感想にもとづいた見解の妥当性や一般性なども含めて慎重な検討分析を進めている必要がある」(400ページ)。大学改革や大学教育には「エビデンス」が必要なのだ。このエビデンスには過去の「失敗」した改革も当然含んでいる。

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