798高橋秀美著『「弱くても勝てます」――開成高校野球部のセオリー――』

書誌情報:新潮社,203頁,本体価格1,300円,2012年9月30日発行

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今日発表の選抜大会の出場校に開成高校の名前はなかった。「甲子園大会に出場するまでの道のりを記録」しようという本書の期待は今夏以降に持ち越されることになった。
開成高校の練習は週1回,3時間ほどである。それでも2005年の東東京予選でベスト16まで勝ち進んだ。戦法は練習の積み重ねができないハンディを逆手に取って,「ドサクサに紛れて大量点を取り,コールドゲームで勝つ戦略」(37ページ)を編み出す。球に合わせず「空振りになってもいいから思い切り振る」(29ページ)。軟式野球の経験者もいる。大リーガーが目標という強打者もいる。個の打撃力で徹底する。これが開成セオリーというわけだ。
野球に教育的意義はないと断言し,ゲームと割り切り勝負にこだわる監督の姿勢と戦い方は,野球道ならぬ精神論を注入しやたらしごきまわる野球強豪校とは対極にある。当事者意識が希薄で,頭でっかちで目前しか見ず視野が狭い選手が多いというコメントをそれとなく差し挟みながら開成高校野球部の勝つための野球への取り組みは爽快ともいえる。
走り込んだり毎日素振りをする選手もいる。でも勝ちに拘るなら限られた練習時間とそれ以外の時間にも工夫があってよさそうだ。打撃力の向上には打撃練習を繰り返すしかない。その量も確保できなければ少ない練習のなかで「実験と研究」(106ページ)をするしかない。
週1の練習というのはなにも開成だけではない。週1の練習に普段の個の努力と工夫を結集しチーム力を上げることは可能だ。打撃にこだわるのはひとつの考え方だ。本当に勝ちに徹するなら別のやり方がある。
開成が甲子園に出場するとき,それは開成野球が開成なるものの殻を破ったときだろう。