書誌情報:文理閣,416頁,本体価格4,500円,2012年3月15日発行
- -
毛筆で連想したのは履歴書である。履歴書は毛筆で書くのが正式で,ペン書きが認められたのは戦後(?)になってからというのだ。現在ではパソコンで書き,書名だけ自筆でもあるいは捺印だけでも認められるようになっている。いまひとつは国民栄誉賞副賞として「なでしこジャパン」に贈られた化粧筆である。「竹田ブラシ」製の熊野化粧筆だった。
筆の浮き沈みを象徴する出来事を超えて,筆にとことんこだわり産地の歴史から書道教育まで網羅した本書は,ものづくりと地域の底力への応援に満ちている。愛好家にしては伝統的な文房具に無知のまま現在にいたっている評者には筆の力を思い知らされた。
毛筆の主要産地は,熊野(広島県),豊橋(愛知県),奈良,川尻(広島県)である。本書での筆づくりの分析はこれらが中心である(もちろん,江戸筆,兵庫・有馬人形筆,滋賀・雲平筆,松江筆,仙台御筆,京都・陶筆,京筆,京都・紋上絵筆,新潟・朝陽筆などについても触れられている)。さらに文房四宝の本場・中国での見聞と書道教育,伝統産業としての筆づくり論と続く。「一筆啓上」と題した50のコラムは筆雑学で満ちている。
筆づくりから書文化に視点を移すと伝統産業としてだけではない別様の広がりが存在している。本書での文化経済論への言及はものづくりの人間的意味を考えさせている。
- 1年前のエントリー
- 国立大学の中期目標・中期計画→https://akamac.hatenablog.com/entry/20120508/1336485488
- 2年前のエントリー
- 大井浩一著『六〇年安保――メディアにあらわれたイメージ闘争――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20110508/1304862131
- 3年前のエントリー
- 伊丹由宇著『にっぽん「食謎」紀行――名物食のルーツを探せ――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20100508/1273330833
- 4年前のエントリー
- 吉田裕清著『翻訳語としての日本の法律用語――言語の背景と欧州的人間観の探求――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20090508/1241791945
- 5年前のエントリー
- 平田清明著作目録ブログ版(1985)→https://akamac.hatenablog.com/entry/20080508/1210240107
- 6年前のエントリー
- 石原千秋著『百年前の私たち――雑書から見る男と女――』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20070508/1178619697