867今野浩著『工学部ヒラノ教授のアメリカ武者修行』

書誌情報:新潮社,204頁,本体価格1,500円,2013年5月15日発行

工学部ヒラノ教授のアメリカ武者修行

工学部ヒラノ教授のアメリカ武者修行

  • 作者:今野 浩
  • 発売日: 2013/05/17
  • メディア: 単行本

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ヒラノ教授が若き30代後半からの数年間パデュー大学ビジネススクールの客員准教授として過ごした体験記である(数年後の渡米経験も入っている)。ビジネススクールを中心としたアメリカの研究者の人間模様,金融工学にまつわる事情,レーガノミクスへの批判的観察のように,ヒラノ教授はいつにもまして冗舌である。30年以上も前という時間的経過がそうさせているのだろう。
敗者復活が可能だと喧伝されるアメリカにあってはそれはビジネスの世界の話であってアカデミックな世界では「絶対に」ありえないという。アメリカのクープマンスとソ連のカントロビッチが受賞した1975年のノーベル経済学賞では「ノーベル賞にまつわる不可解な選考は数々あるが,’ダンツィク外し’以上のものはないのではなかろうか」(43ページ)と裏話を披露している。
アメリカの良き夫の条件は「1に胃袋,2に胃袋,3,4がなくて5が胃袋」(99ページ)とか,「(当時の:引用者挿入)日本にはマルクス経済学の教授が多いので,企業サイドはあまり勉強しない方がいいと思っている,という説もあります」(153ページ)と語ったり,アメリカ人相手のパーティーでは「はじめにジャンク・フードで胃袋を塞いでおいてから,少な目の高級料理を出すのがコツ」(175ページ)と教えてくれる。
金融工学の知識をもって金融商品を開発しリーマン・ショックを引き起こしたビジネススクール出身者への見方は金融工学者でもあるヒラノ教授ならではの指摘である。サンデル教授の登場と宣伝は「クレバーで抜け目がないハーバード」(200ページ)のリーマン・ショックの受けとめ方だとするヒラノ教授はさすがに見るところがちがう。