1743金水敏著『コレモ日本語アルカ?——異人の言葉が生まれるとき——』

書誌情報:岩波現代文庫(学術467),253+24頁,本体価格1,320円,2023年6月15日発行

文末に「ある」や「よろし(い)」が付き,「が」「を」等の助詞がなく,接続詞や接続助詞もない。たとえば,こうだ。
「あなた,この薬のむよろしい。毒ない。決して毒ない。のむよろしい。わたしさきのむ。心配ない。わたしビールのむ,お茶のむ。毒のまない。」「さあ,のむよろしい。ながいきのくすりある。のむよろしい。」(2ページ)
日本語で1920年代から2000年代はじめまで,中国人あるいは中国人に類した人々の言葉として使われてきた一種のピジン(著者は「アルヨことば」と呼ぶ)である。宮沢賢治夢野久作坪田譲治海野十三,中谷鹿二,手塚治虫石ノ森章太郎高橋留美子らの使用例を収集し,幕末から明治にかけての横浜や満州ピジン,さらには中国の抗日映画・ドラマにおける鬼子(グイズピジン)にも分析の対象を広げた。
「時間的,空間的に,満州ピジンと独立に<アルヨことば>が日本で完成」し,「<アルヨことば>」の前身と見られる中国人と日本人の間の片言表現を日本人が大陸に持ち込み,満州ピジンに影響を与えた」(146-7ページ)の見立ては説得的だ。