196服部文男ノート

大村泉さんから故服部文男の貴重なノートの画像データを送っていただいた。山田盛太郎「経済政策総論」と「農政学」,宇野弘蔵「経済原論特殊講義」,高橋幸八郎「欧洲経済史」などである。
まず,山田盛太郎講義ノートは,服部が東京大学経済学部に在学中のものである。「経済政策論総論」(1946年度)と「農政学」(1948年度)である。『山田盛太郎著作集』(岩波書店)別巻にはいくつかの報告,講演,講義の「手控え」が収録されている。また,同第5巻には東京大学経済学部における「経済学原理」の講義案(1955年度版謄写版を底本として,1949年度版を参照したもの)および「農政学」の講義案(1956年度謄写版を底本として,1946年度版のための手稿を参照したもの)が収録されている。「経済政策総論」については,京都大学経済学部集中講義(1968年度)だけが収録されている。これには「開講の辞」がないのにたいし,服部の講義ノートは,「開講の辞」を含んでいる。また,「農政学」の「開講の辞」は年度ごとに内容が異なっているといわれている。服部講義ノートには,山田が1946年に一橋大学でおこなった講演を記録した『一橋新聞』のスクラップがある。『著作集』には収録されていない貴重な記録である。ただし,発行日などが切り取られているため,正確な日付が不明である。服部は,1946年12月発行ではないかと推測している。山田の講義録関係では,『著作集』以外では,東京大学での最終講義「特殊講義」(1957〜58年)を収録・編集した,小林賢齊編『資本主義構造論――山田盛太郎東大最終講義――』(日本経済評論社,2001年3月,[isbn:4818813257])がある。

宇野弘蔵講義ノートは,服部が東北大学大学院特別研究生時代の1949年と1950年のもの。宇野が東北大学経済学部でおこなった集中講義の記録である。ほかに,「経済原論」(1936年度)と「恐慌論」(1953年度)の講義ノートもあるようだ。

高橋幸八郎講義ノートは,同じく服部が東北大学大学院特別研究生時代の1950年のもので,12回の集中講義の記録である。

これらの講義ノートは,山田,宇野,高橋という,日本の社会科学研究にその名を残した研究者の講義を,いわば実況中継するものとして貴重な記録であると思われる。
服部は,1990から1991年にかけてこれらのノートをもとに,「山田盛太郎語録(1946・1948)」,「宇野弘蔵語録(1949)」,「高橋幸八郎語録(1950)」と記録に残した。さらに,1949年9月に大塚久雄との会話を,帰宅後まとめたノートをもとに「大塚久雄先生語録(1949)」を作成した。これら「語録」は,今月中に発行予定の『マルクス・エンゲルスマルクス主義研究』第51号に掲載を予定している。