547歌田明弘著『電子書籍の時代は本当に来るのか』

書誌情報:ちくま新書(871),269頁,本体価格820円,2010年10月10日発行

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今年は電子書籍元年と言われている。電子書籍や専用端末のニュースが毎日のように飛び込んでくるようになった。ちょうど15年前インターネット元年と喧伝されたとき以上に,電子書籍の光と影が話題となっている。アーカイブのあり方,著作権や再販制,新聞などアナログとデジタル世界で「知」殻変動が起こっていることは間違いない。
グーグル,アップル,アマゾンの動向を追い,電子書籍の影響をもろに受ける出版と新聞の対応を展望したのが本書だ。著者は書籍とネットを両軸に据え,テレビを含むメディア全体の構図を見通す佳作を発表してきた(一部につき下記関連エントリー参照)。電子書籍の名が意味するように,印刷本の延長上にデジタル出版物がある。印刷本と電子書籍はおのずと異なるコンテンツになるとしたほうがこれからの方向性を見極めやすい。いずれにしても電子書籍の時代は①読みやすい端末,②魅力的なソフト,③多様な電子書籍が流通する仕組み,④読者が多様な電子書籍と出会える仕組み,⑤使いやすい課金プラットフォーム(251-2ページ)が鍵になる。
著者の見立てでは,新刊単行本と電子書籍の同時発売(電子書籍が激安――再販制と抵触――),iPadのような多機能型タブレット端末の普及,電子書籍の主たる端末としてのスマートフォンの普及,のうち二番目を「電子書籍時代の本格的到来のもっとも楽観的なプロセス」(262ページ)である。「電子書籍の時代は本当に来るのか」はあくまで形容にすぎず,否が応でも電子書籍の時代の到来を受容せざるをえない状況描写が本書の特徴になっている。
電子書籍時代の大状況を知る上では本書は欠かせない。ただ,「電子書籍はそのための(文明衰退を食い止める:引用者注)すぐれた知的道具」(267ページ)とするなら,電子書籍をどう利用するか,あるいは利用する側からの対案にも触れて欲しかった。