書誌情報:日本経済新聞出版社,358頁,本体価格1,900円,2010年4月22日発行
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「限界集落」概念とそれを生み出した大野晃さん(当時高知大学)については広く知られるようになった。①人口,戸数の激減による集落規模の縮小,②後継ぎ確保世帯が流出し老人夫婦世帯(世帯主が65歳以上)へと比重が移るなかで独居世帯が独居老人世帯が滞留,③社会的共同生活維持機能が低下し相互交流が乏しくなり「タコツボ」生活,④集落構成員の社会的生活の維持が困難,というプロセスから集落の人々が社会生活を営む限界状態に置かれている集落のことである。さらに,「存続集落」(集落のなかで55歳未満の人口が50%を越えており,後継ぎ確保によって集落生活の担い手が再生産されている集落),「準限界集落」(55歳以上の人口が50%を越えており,現在は担い手が確保されているものの,近い将来その確保が難しくなってきている集落),「限界集落」(65歳以上の高齢者が集落人口の50%を越え,独居老人世帯が増加し,このため集落の共同活動の機能が低下し,社会的共同生活の維持が困難な状態にある集落),「消滅集落」(人口,戸数がゼロになり消滅してしまった集落)に区分したのだった(大野『山村環境社会学序説』農山漁村文化協会,2005年4月,[isbn:9784540042997])。
本書で紹介されている国土交通省「国土形成計画策定のための集落の状況に関する現況把握調査」では,「限界的集落」という表現で全国に7,878カ所にもなる(中国地方2,270カ所,九州1,635カ所,四国1,357カ所,東北736カ所)。なかでも岡山県が447カ所で全国最悪である。向こう10年間で7,878カ所の「限界的集落」のうち423カ所の集落が消滅する予想だ。
国土面積の69%が中山間地域にある日本は限界集落はどこにも存在する。都市部においても「限界団地」や「限界地域」と呼ぶ状況があり,中山間地域だけの問題ではなくなっている。
著者は『ゴミが降る島――香川・豊島 産廃との「20年戦争」――』(日本経済新聞出版社,1999年5月,[isbn:9784532162900])――産廃問題のきっかけになったのは東京都豊島区池袋の共同溝工事から運び出された産廃からである――で知られ,本書も数年かけてまとめたルポである。岡山県新見市神郷釜村と同豊永集落で,米作り,蔓牛(つるうし)育成,ピオーネ栽培に健気に取り組んでいる人々とゴミの島の10年後の新しい動きを伝えている。
公共工事で整備された立派な対向二車線の道路と廃屋の対照,補助金漬けの農政のあげく見捨てられた山村,限界集落のライフラインになっている行商,ピオーネ栽培に取り組む都会からの新規就農者,食とアートに希望を託す過疎化・限界集落化した豊島の住民など限界集落地の生の声は貴重だ。「知らないことは,無感動,無関心,冷淡というアパシーにも等しい」(314ページ)。
大阪からIターンし,田んぼトラストを実践し,アイガモ農法で米を作り産直で26年経つという吉田さん夫婦は,ともに愛媛大学農学部の卒業生。ガリ版の「花見通信」を発行しているとのことだ。
限界集落問題を自己責任と言う人はいまい。政治と行政が限界集落問題に優先して取り組まなければならないことを教えている。
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