1208吉川洋著『人口と日本経済――長寿,イノベーション,経済成長――』

書誌情報:中公新書(2388),vi+198頁,本体価格760円,2016年8月25日

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経済学が人口をどのように考えてきたのかから繙き,日本経済の牽引力を人口ではなくハード・ソフトのイノベーションにもとめ,長寿の意味を問い,プロダクト・イノベーションを再発見する構成だ。
経済成長が人口(労働力人口)によってもたらされた輸出型産業構造に注目するのではなく旺盛な国内需要にあったことを再確認し,「先進国の経済成長は,人の数で決まるのではなく,イノベーションによって引き起こされる」(91ページ)のだ。もちろん,長寿が「戦後日本の最大の成果」(133ページ)と認め,年々増加している国の社会保障関係費をまかなうためには歳入増(=増税)しかない。
重ねて人口減少が経済のゼロあるいはマイナス成長に結果するのではない。この後が微妙だ。「もはや先進国において経済成長は不必要であるか否かは,究極的には80歳を越えるまでになった平均寿命はここらでもう十分,これ以上寿命を延ばす必要はないと考えるか否かにかかっている」(183ページ)。
本論での枝葉への展開の可能性をいくつも含みながら,巷間に流布する人口減少悲観論への批判を込めていた。