1143大江正章著『地域に希望あり――まち・人・仕事を創る――』

書誌情報:岩波新書(1547),viii+244頁,本体価格800円,2015年5月20日発行

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「地方創生」が声高に叫ばれ前から農山漁村第一次産業を重視した取り組みがあった。地元資源を活かした人と自然との関わりだけでなく,新しい人と人との創出を通じた暮らしの構築に,地域に住む人の息吹と土の匂いを感じることができた。「まち・人・仕事」は「まち・ひと・しごと」とどのように違うのかがよくわかる。
「消滅市町村」第一位の村・群馬県南牧村,半農半Xと有機農業で山村に灯りを灯した島根県邑南町・旧弥栄村・旧柿木村自然エネルギー利用で地域の可能性を追求している福島県会津地方・岐阜県石徹白(いとしろ)地区,漁協とNGOとの協働で地域漁業を担う宮城県旧北上町・福島県相馬市,土地の所有と利用とを分け医・食・住を実現した高松市,共同出資の共同店で商店街再生に挑戦する宮城県丸森町大張地区,NPOと行政の力によって有機農業を進める福島県東和町有機農業と地場産業の連携によって地域循環型経済を目指す埼玉県小川町,これらが「まち・人・仕事」の実例だ。
企業誘致や公共事業がすべてではない。経済規模は小さくて構わない。行政,組合,会社,NPOなどが存在する。かといって農山村で完結せず都市と共存する。著者が地域から学んだ「兼業起農事業」(51ページ),「アベノミクスの時代遅れの「唯経済成長路線」に未来はない」(64ページ),新しい時代は「エネルギーと食べものの地域自給から」(102ページ),「緩和すべき規制と強化すべき規制がある」(167ページ)などには思わず膝を打った。