1153松永桂子著『ローカル志向の時代――働き方、産業、経済を考えるヒント――』

書誌情報:光文社新書(788),205頁,本体価格740円,2015年11月20日発行

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いま地方が見直されるのはなぜか。グローバル化とネット社会の深化と親和性があるとの見方から個人の変化(「ゆるやかな生態系」と形容)と消費社会の変化に根拠を探り、地域のさまざまな取組を具体的に検証していた。島根県江津市徳島県神山町、都市圏の「新たな自営」、トリノのスモールビジネス、大阪の中小企業の共同事業会社、墨田区東大阪地場産業今治タオル、波佐見焼)、神戸ものづくり職人大学、島根県邑南町、福井県池田町などを取り上げながら地域の「芽」から人びとの生の営みを受けとめ、地域経済学・地域産業論に昇華させていた。
地域志向には事業志向もあること、地域活性化には政治や政策からではなく目的を持った取組の交流の場から開花すること、スモールビジネスには社会包摂型と経済活性化の支援が必要であること、都市のものづくりには人材育成、観光、デザイン志向など新しい需要創造が不可欠であること、地場産業の展開には生産者と消費者との近さや町並み・工房などの観光資源を付加していることなど著者の感性が叙述に生かされている。
とはいえ、著者の前提になっているのが個人の内面の変化である。「柔らかい個人主義」やポスト一億総中流時代という個人が地域を目指すという筋道と他方で著者が強調する生活者視点とは必ずしも同じではないように思う。